新倉 瞳(チェロ)

満を持して取りくんだ“大人の作品”

©ミューズエンターテインメント
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 期待の若手ではなく、もはや実力派奏者の領域に足を踏み入れている。新倉瞳が約6年ぶりにリリースする待望のソロ・アルバムには、その成長の跡が、芯の通った音色と解釈で記録されている。今年5月に出演した山形交響楽団の定期演奏会(指揮は飯森範親)の模様をライヴ収録。エルガーの協奏曲、ブルッフ「コル・ニドライ」、カタロニア民謡「鳥の歌」という王道作品が並ぶ。
「私は高校生の頃にメジャー・レーベルからCDデビューの話をいただき、大学時代には、サントリーホールをはじめとした大きな会場のステージに出演する機会にも恵まれました。ただ、まわりの方々の期待の大きさに自分が応えられていないように感じられたこともあり、原点に戻るべく、2010年からスイスに留学しました。それから5年、自分にできることと求められていることとのバランスがようやくとれてきた“現在の私”をお伝えできるよう、全身全霊を傾けて取り組みました」
 上記3曲は、いずれも悲しみや祈りをテーマにした“大人の作品”。新倉は各曲に長く愛着があり、満を持して今回の録音に臨んだそうだ。
「エルガーの協奏曲は、高校進学直前に『桐朋学園子供のための音楽教室』の卒業演奏会で初めて弾いた思い出の作品。『鳥の歌』も同じ頃に出会い、音楽で平和を歌えることに感動した私は、それがきっかけでこの道へ進む決心ができました。ユダヤ民族の悲哀と憂いが込められた『コル・ニドライ』も昔から大好きでしたが、ユダヤ教の礼拝に参加したり、東欧系ユダヤのクレズマー音楽に触れたりする中で、共感がより深くなりました。こうした長年の夢を叶え、温かく献身的に支えてくださった飯森マエストロと山形交響楽団の皆さんには感謝の気持ちで一杯です」
 今年からスイスのカメラータ・チューリヒのソロ首席奏者に就任し、欧州で益々の活躍が期待される新倉だが、今後は日本での活動も徐々に増やしたいと希望しており、12月のリサイタルはその注目の第一歩となりそうだ。
「シューマン『アダージョとアレグロ』、ブラームスのソナタ第1番、ラフマニノフのソナタを演奏します。いずれもロマン派の傑作ですが、恐れたり難しく考えたりせずに作品と向き合い、皆さんにご堪能いただける“切り口”を見出せたらと思っています。共演のピアニスト佐藤卓史さんとデュオでご一緒するのは今回が初めてですが、室内楽の経験が豊富で、内外のアーティストからの信頼も厚い方なので、実りの多い公演にしたいです」
取材・文:渡辺謙太郎
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年11月号から)

新倉瞳 チェロ・リサイタル
12/11(金)19:00 浜離宮朝日ホール
問:アスペン03-5467-0081
http://www.aspen.jp

CD『新倉瞳 エルガー:チェロ協奏曲
ソニー・ミュージックダイレクト
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11/18(水)発売