
取材・文・写真:オザワ部長(吹奏楽作家)
ジュリアノーヴァ国際音楽祭で総合優勝!
ステージ上で目の覚めるようなマーチングを繰り広げる日本の高校生たち。それを目にしたイタリアの観客たちは思わず立ち上がり、拍手喝采を送った――。
イタリア中部のジュリアノーヴァ市で今年5月に開催されたジュリアノーヴァ国際音楽祭。世界11の国と地域から19団体が出演する中、滝川第二高校吹奏楽部は大聖堂前の特設ステージで国内トップレベルの演奏・演技を披露。なんと総合優勝(第1位)を獲得したのだ。

それだけでなく、最優秀演出賞、最優秀ショーバンド賞、最優秀シンフォニックバンド賞、さらには部長でフルート担当の池田鼓遥(こはる)(3年)が最優秀ソリスト賞にも選ばれた。
滝川第二は、国内では全日本マーチングコンテストに19回出場(金賞14回)というマーチングの名門。マーチングバンド全国大会にも一昨年、去年と連続出場(いずれも銀賞)。吹奏楽コンクールでも、関西大会で10大会連続金賞に輝く。
吹奏楽コンクール、マーチングコンテスト、マーチングバンドの大会という3つの大会に青春をかける「三刀流」バンドだ。
日本の学生の吹奏楽やマーチングは世界トップレベルだと言われている。だが、国際的なコンクールに参加するケースは多くなく、本当に「世界トップレベル」なのかはわからなかった。
今回、滝川第二は同音楽祭に4回目の出場。年齢制限がなく、大人のバンドも参加する中、実に4回目の総合優勝。日本の吹奏楽・マーチングのレベルの高さを証明した。
音楽の本場イタリアの地に、日本の高校生たちの音楽と笑顔がまぶしくきらめいた――。

海外での活躍がもたらすもの
イタリアの音楽祭参加について、顧問の西谷尚生先生はこう語る。
「ただの海外旅行と違い、演奏を通じて異文化に触れ、交流できる貴重な機会。空港ではロストバゲージがあってトランペットが届かないなどトラブルもありましたが、部員たちにとっては良い経験になったと思います」
トランペットは急遽隣町の楽器店へ行ってレンタル。届かなかった楽器も、帰りの飛行場で無事に戻ってきたという。
ジュリアノーヴァ国際音楽祭に初めて参加したのは2006年。スペインやアメリカ、台湾などへの遠征もあり、各地で日本のスクールバンドの実力を知らしめてきた。
今年は過去の実績から音楽祭での高評価を想定し、トロフィーを入れるためのスーツケースも持っていっていたという西谷先生。ただ、最優秀ソリスト賞まで獲得できたのは予想外だったという。

「このイタリアでの成果が今後の活動に直接影響を与えるかはわかりません。でも、間違いなく部員たちの人生に良い作用を与えるやろうなと思っています。何が起こるかわからへん海外で、どうやって本番を成功させるかという持っていき方など、学んだことも多いでしょう」
クラウドファンディングなどでも多くの支援を受けた。だからこそ、今後の活動では感謝の気持ちを表しつつ、一人ひとりがこの経験を未来に活かしていってほしいと先生は願っているという。
「無双モード」でソロを奏でた部長
音楽祭に参加したのは2、3年生の希望者72人。ステージ上の限られたスペースを動き回りながら、《ボレロ》《愛の花(合唱)》《マーキュリー》《ニュー・シネマ・パラダイス》を演奏した。
最優秀ソリスト賞を受賞した部長の鼓遥は、中学時代にマーチングの経験がなかったという。
「入部したころはマーチングは右も左もわからず、動きながら演奏するということに頭がこんがらがっていました。それに、3つの大会への準備と本番で『それもやらなあかんの!』と毎日てんやわんや。今年、ようやくまわりを見る余裕が生まれました」
もともと運動は苦手で、入学時には両親に「やっていけるの?」と心配されたそうだが、日々の練習の積み重ねで「時間が解決してくれた」と鼓遥は言う。

高3では三刀流に加え、イタリアでの挑戦が巡ってきた。ジュリアノーヴァ国際音楽祭の本番では、1曲目の《ボレロ》冒頭でソロを担当。もっともプレッシャーがかかる局面だ。
「日本だとものすごく緊張するんですけど、今回は客席がイタリア人ばかりだったので、『もう一生会わないやろ』と思って、むしろ“無双モード”でのびのび吹けました」
鼓遥にとって予想外だったのが、本番が午後9時過ぎだったこと。午前に始まり、おおよそ夕方には終わる日本のコンクールとは大違いだ。
「すごく眠くて、意識を保っていられるかなと心配でした。でも、ステージに立ってみると日本と違った歓声とか立ち上がっての拍手とか、客席が熱く盛り上がってくれたので、いいステージにできたと思います」
リアクションの違いに戸惑いながら
3年の小野光華(みはな)は、座奏では鼓遥と同じフルート奏者だが、マーチングではドラムメジャー(マーチングの指揮者)を担当している。
マーチングの強豪として知られる姫路市立飾磨(しかま)東中学校の出身で、中学時代は3年連続で全日本マーチングコンテストに出場。「高校も強豪でマーチングを続けたい」という思いで、光華は姉も通っていた滝川第二に飛び込んだ。
「マーチングの経験はあったので、未経験の人たちより不安はなかったですけど、滝二はやることが多いので、慣れるのに時間がかかりました」

昨年12月、ドラムメジャーに抜擢された。
「まったく経験のない役割やし、『私でいいのかな』という不安はずっとありました。いまはもう、振り切ってやるしかないと覚悟が決まっています」
今年の部員数は過去最多の134人。特に、マーチングバンドの大会には全部員で出場するため、演奏・演技でも、メンタル面でも、みんなを引っ張っていくリーダーシップが求められる。
「38人の3年生は、後輩たちより人数が少ないですが、がんばってみんなをまとめ、動かしていきたいと思っています」
ジュリアノーヴァ国際音楽祭でもドラムメジャーとして指揮を担当した。
「驚いたのは、演奏の最初に客席に向かって挨拶したとき。日本なら拍手が起こるのに、イタリアは反応がなかったんです。『このタイミングで拍手じゃないんや!』と内心焦りました。でも、演奏が始まるとものすごく盛り上がってくれて」
演奏中、光華は客席に背中を向けているため、盛り上がりの様子は後ろ側からの喝采や雰囲気で感じるしかない。だが、演奏・演技をしている仲間たちの変化ははっきり見えた。
「お客さんたちが明るいので、日本で本番をするときよりみんなの笑顔が明るく輝いていました」
その笑顔が滝川第二のショーに力を与えたことは言うまでもない。
太陽のような笑顔が新たな武器に
表彰式では、各賞が発表されてもアナウンスがイタリア語だったため、部員たちはほとんど理解できなかったという。
ただ、ソリスト賞の発表で「コハル・イケダ!」は聞き取れたため、鼓遥は慌ててステージに飛んでいったという。
「予想していませんでした。イタリアでのソリスト賞なんて一生ないと思います。嬉しくて、表彰式のあとでお母さんに電話しました」
総合優勝が決まった際には西谷先生、鼓遥、光華がステージに上ってトロフィーなどを受け取った。だが、部員たちが第1位だったと理解したのは、表彰式が終わってバスに乗ってからだった。
光華は言う。
「一生に一度の経験ができました。このメンバーで総合優勝を達成できたことが嬉しかったです」

たくさんのトロフィーや表彰状を手に凱旋帰国した滝川第二。現在は「三刀流」の挑戦のまっただ中だ。鼓遥は言う。
「目標は3つの大会すべてで全国大会金賞。イタリアでもやりきれた自分たちならできると信じています」
光華もこう意気込んでいる。
「イタリアのときのような笑顔が輝く本番を日本でも実現したいです」
音楽の本場を沸かせた滝川第二高校吹奏楽部は、イタリアの太陽のように輝く笑顔を武器に、3つの高みを目指して走り続けている。
『吹部ノート —12分間の青春—』
オザワ部長 著
ワニブックス
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オザワ部長 Ozawa Bucho(吹奏楽作家)
世界でただひとりの吹奏楽作家。
ノンフィクション書籍『とびたて!みんなのドラゴン 難病ALSの先生と日明小合唱部の冒険』が第71回青少年読書感想文全国コンクールの課題図書に選出。ほか、おもな著書に小説『空とラッパと小倉トースト』、深作健太演出で舞台化された『吹奏楽部バンザイ!! コロナに負けない』、テレビでも特集された『旭川商業高校吹奏楽部のキセキ 熱血先生と部員たちの「夜明け」』、人気シリーズ最新作『吹部ノート 12分間の青春』など。


