
2026年、プラハ国際吹奏楽コンクールで総合優勝に輝いた岡山学芸館高等学校吹奏楽部。率いる中川重則先生も最優秀指揮者賞を受賞し、その音楽はヨーロッパでも高く評価された。世界の舞台で見えた日本の吹奏楽の現在地とは。「個」を伸ばすこと、本物の音楽に触れること――中川先生が追求する「いい演奏」と、これからの吹奏楽について聞いた。
取材・文・写真:オザワ部長(吹奏楽作家)
個が伸びることの大切さ
——プラハ国際吹奏楽コンクールで岡山学芸館高校吹奏楽部は総合優勝や各賞を受賞。そして、中川先生個人は最優秀指揮者賞に輝きました。本当におめでとうございます。このコンクールに出場した感想から教えていただけますか?
会場の雰囲気も、持ち時間45分というのも含めて、日本のコンクールとはかなり違うものでした。全体として言えるのは、まったくピリピリしていなくて楽しいパーティー、あるいはフェスティバルのようなコンクールだったということです。
日ごろから岡山学芸館の部員たちは、コンクールでもコンサートでも特別な違いはなく演奏していますが、プラハでも「いつものように、いい音楽を思い切って演奏しよう」という思いでやってきました。
——点数が公開され、100点満点で96.1点という高得点。参加団体で90点以上は2団体だけでしたね。そして、指揮者賞。クラシックの本場で指揮者として認められた気持ちはいかがでしたか?
ありがたかったですね。部員たちの演奏がよかったからいただけたのかなと思います。
僕自身、指揮をどこかで学んだわけではなく、大阪音楽大学にいたころに授業でやった程度。吹奏楽部の顧問になり、指導をしていく中でいろんな方からアドバイスをもらったりしながら、自分なりに指揮をしてきました。

——世界的にレベルが高いと言われる日本の中高生の吹奏楽ですが、本場でも通用することが証明されましたね。
ヨーロッパで高い評価が得られて本当によかったです。ただ、欧米ではアマチュアバンドなどを経てすごいプレイヤーが出てきます。日本でも、高校などのチームでの活動は素晴らしいですが、もっと一人ひとり、個人が育ってほしいですね。そして、高校までで終わるのではなく、素晴らしい音楽がその先までつながっていってほしいです。
個人が育つと、楽しいことはもっと増えてきます。全体で音楽をつくることと、個が伸びることは相反することではありませんし。個の能力が高まれば、ソロも、アンサンブルも、吹奏楽もより素晴らしいものになるでしょう。
吹奏楽はジャンルではなく編成だ
——岡山学芸館は実際に個々の部員が伸びている印象があります。プロのオーケストラプレイヤーも誕生していますね。
いまだと、札幌交響楽団の原田侑來(クラリネット)、NHK交響楽団の藤井虹太郎(トランペット)、東京都交響楽団の中村友亮(打楽器)、神戸市室内管弦楽団の赤星佳穗(フルート)が卒業生です。
——先生はクラシックと吹奏楽の関係についてどう思われますか?
僕はいつも部員たちに「編成が吹奏楽というだけで、やっているのはクラシックだよ」と言っています。四重奏や五重奏がジャンルではないように、吹奏楽もジャンルではありません。
だから、岡山学芸館の部員たちはクラシックを学んでいる子たちなんです。吹奏楽だからどうというのは気にしていません。吹奏楽オリジナル作品も、僕らはクラシック曲だと思って演奏しています。
——中川先生ならではの指導ポリシーはありますか?
とにかく本物を聴きなさい、ということですね。オーケストラやクラシックが好きだったら、オケのコンサートに足を運びなさいと。僕もよく行きますし、部員たちも行きます。もしジャズやポップスがやりたいなら、それらのプロのライブに行きなさいと。

——先ほど、部員のみなさんが『ぶらあぼ』のページをめくりながら海外の指揮者や奏者の話で盛り上がっていたのが印象的でした。本当にみなさん、クラシックがお好きなようですね。それも岡山学芸館の奏でる音楽に厚みや深みを与えているかもしれませんね。
コンクールで目指すのはシンプルに「いい演奏」
——岡山学芸館は全日本吹奏楽コンクールで8大会連続で金賞を受賞中。今年も通算22回目の全国大会出場が決まっており、注目の自由曲はアルフレッド・リードの《アルメニアン・ダンス Part I》ですね。
2022年の《エルサレム讃歌》からリード作品を続けて取り上げてきて、今年が5作目。《アルメニアン・ダンス Part I》という吹奏楽を代表するような名曲に挑戦することにしました。
いままでもコンサートで演奏はしてきているのですが、曲の良さをまだまだ出し切れていなかったと思うので、今年はしっかり準備をして、自分たちなりの曲に仕上げたいです。
過去に、大阪府立淀川工科高校や神奈川県立野庭高校といった名門校が伝説的な演奏を残しているのが《アルメニアン・ダンス Part I》です。やるからには失礼がないように演奏したいと思っています。

——昨今、リード作品が再評価され、人気も再燃していますが、火付け役は岡山学芸館です。来年以降は《アルメニアン・ダンス Part I》を演奏する団体が増えそうです。さて、ずばり、今年の全国大会の目標を聞かせていただけますか?
これは毎年変わっていないことですが、コンクールでは12分間で演奏する2曲を、どこまで深めていけるかという活動を続けています。その2曲で満足するのではなく、定期演奏会などのコンサートでも深い音楽を2時間、3時間できるようにしたいんです。
コンクールでやりたいのは、シンプルに「いい演奏」です。それ以上のことを考えると、ブレが生じるような気がして。確かに、去年まで8大会連続で金賞をいただいてきていますけど、「もし途切れたら」といったことを恐れてもしょうがないし、いい演奏をすれば結果はついてきます。ただ、コンクールなので何が起こるかわからないところもあります。だから、妥協なく、ぎりぎりまでできる限りのことをやっていくしかない。
僕らが大切にしているのは、金賞という結果よりも、まず演奏そのものなんです。


オザワ部長 Ozawa Bucho(吹奏楽作家)
世界でただひとりの吹奏楽作家。
ノンフィクション書籍『とびたて!みんなのドラゴン 難病ALSの先生と日明小合唱部の冒険』が第71回青少年読書感想文全国コンクールの課題図書に選出。ほか、おもな著書に小説『空とラッパと小倉トースト』、深作健太演出で舞台化された『吹奏楽部バンザイ!! コロナに負けない』、テレビでも特集された『旭川商業高校吹奏楽部のキセキ 熱血先生と部員たちの「夜明け」』、人気シリーズ最新作『吹部ノート 12分間の青春』など。


