
第94回日本音楽コンクールオーボエ部門で第2位に輝き、岩谷賞(聴衆賞)、E.ナカミチ賞も受賞した気鋭のオーボエ奏者・江波戸大樹。ヨコスカ・ベイサイド・ポケットで初のリサイタルを控える彼にとって、実は横須賀は「運命」の場所だった。
江波戸は吹奏楽の強豪としても知られる千葉県立幕張総合高校シンフォニックオーケストラ部の出身。2年生の時の全日本吹奏楽コンクール出場をかけた東関東大会の会場が横須賀芸術劇場・大劇場だった。
「目標の全国大会出場を果たせず、部員たちや顧問の伊藤巧真先生と悔し涙を流しました」
それと同時に、本番の演奏も強烈に記憶に焼きついていると語る。
「ソロを任せていただいたんですが、広々としたホールの光景とそこに飛んでいく自分のオーボエの音は、いまも鮮明に覚えています」
横須賀芸術劇場の小劇場、ヨコスカ・ベイサイド・ポケットでのリサイタルのオファーが届いたのは、日本音楽コンクールの1週間後だった。
「まったく予想もしていなかった展開で、嬉しいと思いつつ不安もありました。でも、音コンを聴きにきてくださった伊藤先生から『コンクールでいただいたご縁は大事にしなさい』という言葉をいただき、思いきって引き受けようと思ったんです」
中学1年で吹奏楽部に入った。最初はフルートだったが、奏者がいないオーボエに移った。あまりの難しさに「なんで引き受けちゃったんだろう」と思ったこともあるが、いつしか運命をともにする楽器になった。
音大を卒業し、数々のコンクールを受け続けてきた。日本音楽コンクール前は「部活のように」ハードな練習を重ねた。
「このコンクールは自分を引き上げてくれるものかもしれない、という予感があって。気づけば第2位になっていました。人生のターニングポイントですね」
さまざまな運命の点。つながった線の先はあの横須賀へと伸びていた。初めて挑むリサイタルは自身の最大の強み「音質」を活かせる「フランスもの」を揃えた。
「私は柔らかく歌うような表現が得意。自分の音に合っているプーランクの『オーボエ・ソナタ』やゴーベール『田園風間奏曲』を選びました。シルヴェストリーニやドラティは、挑戦的な曲として取り入れました」
今後は各地のオーケストラでも客演する予定があるという若き才能。横須賀のステージでさらに大きく開花する姿をぜひ目撃していただきたい。
取材・文:オザワ部長
(ぶらあぼ2026年9月号より)
フレッシュ・アーティスツ from ヨコスカ シリーズ69
江波戸大樹 オーボエ・リサイタル
2026.8/29(土)15:00 ヨコスカ・ベイサイド・ポケット
問 横須賀芸術劇場046-823-9999
https://www.yokosuka-arts.or.jp

オザワ部長 Ozawa Bucho(吹奏楽作家)
世界でただひとりの吹奏楽作家。
ノンフィクション書籍『とびたて!みんなのドラゴン 難病ALSの先生と日明小合唱部の冒険』が第71回青少年読書感想文全国コンクールの課題図書に選出。ほか、おもな著書に小説『空とラッパと小倉トースト』、深作健太演出で舞台化された『吹奏楽部バンザイ!! コロナに負けない』、テレビでも特集された『旭川商業高校吹奏楽部のキセキ 熱血先生と部員たちの「夜明け」』、人気シリーズ最新作『吹部ノート 12分間の青春』など。

