オペラ・アリアからシューベルトまで コロラトゥーラ・ソプラノ田中彩子が贈る極上のひととき

©Lisa Fokina

 世の中が世知辛く、人々の心から余裕が失われているが、そんなときは田中彩子の歌を聴くといい。心を解きほぐしてくれる心地よい声は「天使の歌声」ともいわれ、そこに透き通るきらめく高音と、鮮やかなコロラトゥーラが加わる。聴き手はそれを浴びている間、幸福感に包まれ、聴き終えたとき少し元気になっている。

 そのように力がある歌は例外なく、大いなる鍛錬を経て生まれる。田中彩子の場合も例外ではない。

 18歳で単身ウィーンに留学し、10年ほどは帰国せず、日本語を使う機会もほとんどない環境の中でコロラトゥーラなど神から与えられた恵まれた才能を磨き続けた。基礎を学ぶのはもちろんだが、ほかの歌手と異なる田中だけの持ち味が、いっそう輝くように努力を重ねた。結果として、彼女の歌は聴き手をやさしく包み込む。

 《夜と夢〜オペラとシューベルト〜》と題された今年のリサイタル・ツアーは、とりわけ贅沢だ。オペラ・アリアは、イタリア語のものがヘンデルの3作と《リゴレット》、《連隊の娘》(イタリア語歌唱)。ドイツ語がモーツァルトの2作。さらには《ホフマン物語》や《ミニョン》などフランス語のアリアも並ぶ。いずれの曲もコロラトゥーラ、超高音、美しいレガートが満載で、田中の持ち味が存分に発揮される。

 そこにシューベルトによるイタリア語の歌曲とドイツリートが加わる。ピアノ共演は名手・佐藤卓史。《魔笛》の夜の女王では鮮烈な輝きに撃たれ、〈夜と夢〉などのリートで静かな余韻に包まれ、すべての時間が愛おしく感じられると思う。

文:香原斗志

(ぶらあぼ2026年8月号より)

田中彩子 ソプラノ・リサイタル2026 《夜と夢~オペラとシューベルト~》
2026.9/26(土)14:00 広島県民文化センター(HOMEイベントセンター082-221-7116)
10/15(木)19:00 札幌コンサートホール Kitara(小)(テレビ北海道011-351-7277)
11/3(火・祝)14:00 大阪/住友生命いずみホール(ABCチケットインフォメーション06-6453-6000)
11/14(土)17:00 宮城/白石市文化体育活動センター ホワイトキューブ(0224-22-1290)
11/23(月・祝)14:00 愛知/しらかわホール(東海テレビ放送 事業部052-954-1107)
11/27(金)19:00 東京/第一生命ホール(チケットスペース03-3234-9999)
https://avex.jp/classics/ayakotanaka2026


香原斗志 Toshi Kahara

音楽評論家。神奈川県生まれ。早稲田大学卒業、専攻は歴史学。イタリア・オペラなどの声楽作品を中心にクラシック音楽全般について執筆。歌声の正確な分析に定評がある。日本ロッシーニ協会運営委員。著書に『イタリア・オペラを疑え!』『魅惑の歌手50 歌声のカタログ』(共にアルテスパブリッシング)など。歴史評論家の顔もあり、近著に『お城の値打ち』(新潮文庫)。