音楽の地平を切り拓く「サントリーホール サマーフェスティバル」、今年は開館40周年ならではの新企画も!

左より:ルカ・フランチェスコーニ/大野和士 ©Herbie Yamaguchi/沼尻竜典 ©Ayane Shindo/石川健人 ©Ayane Shindo

 クラシック音楽の「夏の風物詩」と言うと、避暑地での音楽祭が思い浮かぶ。だが、じつは東京にもずばぬけて個性的な音楽祭がある。今年40周年を迎える東京・赤坂のサントリーホールでは開館の翌年以来、毎夏、約1週間にわたる「サマーフェスティバル」が行われてきた。ここには「音楽の現在(いま)」が溢れている。心身ともにネジの緩んだ夏の終わりに、ガツンと強烈な刺激に目覚める爽快さは比類がない。

 その筆頭が「サントリーホール国際作曲委嘱シリーズ」である。今年、監修者の細川俊夫が選んだのはイタリアのルカ・フランチェスコーニだ。オペラから電子音楽まで、幅広いジャンルで健筆をふるってきた作曲家で、充実したアイディアと生気溢れる音響で現代音楽のレパートリーを豊かにしている。8月29日、大野和士&東京都交響楽団による「オーケストラ・ポートレート」では、初演者のリーラ・ジョセフォウィッツ(ヴァイオリン)が来日して独奏する「ドゥエンデ(鬼気迫るもの)—黒い音」が注目だ。スペインの詩人で劇作家のフェデリコ・ガルシア・ロルカの言葉を借りたタイトルは、芸術の本質が生まれる神秘を宿した暗い響きを指している。「自分自身と楽器の中に、ある種の新たな純粋さを見出す」(フランチェスコーニ)と語られるこの協奏曲は、精緻に構成されているにもかかわらず、猛烈なエネルギーで私たちを包んで理性を忘れさせ、直観に訴える。さらに、世界初演となる新作が最大の聴きもので、自分が「初めての聴衆になる」というスリルと高揚感を味わえる。彼の確かな筆力は23日の「室内楽ポートレート」で演奏される曲を聴けば一目瞭然だが、フランチェスコーニのほんとうのすごさは伝統と革新の対立を吹き飛ばし、理性と本能のどちらにも揺さぶりをかける魔力にある。

 沼尻竜典が東京交響楽団を指揮する27日の「時を編む響」は40周年の今年ならではの企画だ。3部仕立てのオーケストラ・コンサートには三善晃と武満徹という20世紀日本の現代音楽の礎を築いた作曲家の曲目が並ぶ一方で、40代から50代のアメリカとイギリスの中堅、さらに30代のフランスの若手の作品が並び、国際的な広がりをみせる。ピアノの小林愛実、ヴァイオリンの成田達輝ら、創造性と活力に満ちた演奏家たちが参加するのも魅力。ちなみに、電子音楽やビジュアルアートで国際的に活躍する池田亮司の、アコースティックな生音による「op.1」も待望の日本初演となる。

 沼尻が若い世代の演奏家たちと共に、20世紀の名曲と藤倉大の近作を演奏する22日の「アンサンブル・ゴーフォーイット」は、今、そして未来の聴衆へ向けて、現代音楽の世界をより拓かれたかたちで届けようという想いが込められたシリーズだ。今回からスタートする。“Go for it”は「実現したいことに粘り強く挑戦する」ことを意味しているそうだが、まさにサントリーの企業理念である「やってみなはれ」の音楽版と言えそうだ。

 「芥川也寸志サントリー作曲賞」では、2年前に受賞した石川健人の新作「嗅覚受容体」が楽しみだ。「2台のキーボードとオーケストラによるにおいの宇宙」(石川健人)を探るという発想がユニーク。金田望、中橋祐紀、山本哲也という30代の作曲家のノミネート作品は三者三様で変化に富んでいる。一つのコンサートとして多彩な音楽を味わうのもよし、誰か一人の作曲家を応援するもよし、SFA総選挙という聴衆参加の投票で「推し」に一票投じるもよし。サントリーホールに来れば、想い出深い夏となること、まちがいなしだ。

文:白石美雪

サントリーホール サマーフェスティバル 2026
◎テーマ作曲家 ルカ・フランチェスコーニ
◎第36回芥川也寸志サントリー作曲賞選考演奏会
◎サントリーホール開館40周年記念 「時を編む響」
◎アンサンブル・ゴーフォーイット

2026.8/22(土)~8/30(日) サントリーホール
サントリーホールチケットセンター0570-55-0017
https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/feature/summer2026/
※フェスティバルの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。


©池上直哉

白石美雪 Miyuki Shiraishi

20世紀の前衛を中心に幅広く「現代音楽」を研究。ここ10年あまり、近現代の日本の音楽評論史にとりくんでいる。東京藝術大学卒、同大学院修士課程修了。朝日新聞でコンサート評、レコード芸術 ONLINE で新譜月評を担当。著作に『ジョン・ケージ―混沌ではなくアナーキー』(武蔵野美術大学出版局、第 20 回吉田秀和賞受賞)、『すべての音に祝福を ジョン・ケージ50の言葉』(アルテスパブリッシング)、『音楽評論の150年福地桜痴から吉田秀和まで』(音楽之友社、第37回ミュージック・ペンクラブ賞、第3回音楽本大賞個人賞受賞)など。武蔵野美術大学教授。