2026年4月1日、東京芸術劇場の新芸術監督に、岡田利規(舞台芸術部門)と山田和樹(音楽部門)が就任し、同日に記者会見を行った。17年間にわたり牽引してきた前芸術監督の野田秀樹の後を継ぐ岡田と、同劇場初の音楽部門芸術監督となる山田。対照的な個性を持つが「変革」への志を共にする両名によって、同劇場の新たな歴史が幕を開けた。

会見会場となったのは、だれもが自由に行き来できる劇場地下1階のオープンスペース、ロワー広場だ。このことからも劇場の目指す方向性を予感させる。今回、芸術監督の選定にあたって重視されたのは、「東京の音楽、舞台芸術を牽引する中核施設として、新たな文化創造発信を担う」という劇場のミッションに基づき、「実績、リーダーシップ、国際性、発信力、そして公共劇場としての使命を体現できる人材」だ。
会見に登壇した鈴木順子副館長は、「より社会に開かれ、多様な人々が交わり、新たな創造が生まれる場へと進化していきたい。舞台芸術と音楽の枠にとらわれず、対話を通じて新しい表現を生み出していく、それが岡田、山田体制の目指す劇場です」と語る。特に音楽部門に芸術監督を置く新体制は、「コンサートホールが日本を代表するシンフォニーホールであるという認識のもと、音楽と舞台芸術の両輪で国内外のアートシーンをリードしていきたい」という考えの表れだ。
それぞれの就任記念公演は、まず山田が5月、新プロジェクト「交響都市計画」の第1弾、演奏時間3時間、再演が難しいとされてきた水野修孝作曲の伝説的な大作「交響的変容」を取り上げる。一方の岡田は8月に新作『映画を撮りたいゾンビの演劇』を上演。さらに10月には、両監督のコラボレーション企画も予定しているという。

山田は、芸術監督兼音楽監督を務めるモンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団と、メシアンの大作「トゥーランガリラ交響曲」を初めて取り組むため、モナコからオンラインで参加した。
山田和樹が語るキーワード「はみだし」
「就任するにあたっていろいろなことを調べました。芸術劇場とは、芸術劇場がある池袋について、なぜ《池袋》という地名になったのか、など。 勉強しているというとちょっと大げさになりますが、芸術監督のお話がなかったら調べなかったでしょうし、それが自分自身とても面白くて。豊島区や池袋、芸劇…、そういうことを考えていると、社会の中で『なぜ東京芸術劇場が存在しているのか』──自分たちの存在意義を自ら証明していかなければいけない時代になっています」
そこで自身が掲げたスローガンは「交響都市計画(ハーモニック・シティ・プロジェクト)」、キーワードは「はみだし」だ。「芸術の根本はキャンバスからはみだすこと」と、ホールから都市や社会へと繋ぐ道筋を見据えている。
「『はみだす』は元々、違うもの同士をくっつける『接着剤』の意味で、今の時代にとても必要。敵対しているもの、もともと合ってるもの、何でもいいのですが、音楽も、音楽以外の分野でも、東京芸術劇場が率先して結びつける『接着剤』としての役割を果たしていきたい。それがこのプロジェクトの根本です。
『はみだし』をローマ字で書くと『H A MI D A SI』、これは音名で『シラミレラシ(B–A–E–D–A–B)』となるんですね。来年2月に『ハミダシ・フェス』という現代音楽のフェスティバルを行いますが、タイトルとともにテーマ音楽まで同時に決まりました(笑)」

そして劇場のあり方をこう語る。
「今ももちろん東京芸術劇場は一つの理想を実現していると思いますが、日本に数ある素晴らしいホールの中で、音楽のコンサートホールと演劇のホールがあり、いろんなものが揃っている空間を持つ珍しい施設です。そこに老若男女を問わず、さまざまな世代の人たちが集う場にならなければいけない。
以前、武満徹さんが東京オペラシティを創る時に《人が集うことに意味があり、それによって人間性や社会性が復帰される。劇場やホールはそういう場なのだ》と仰っていた。 まさしくそうで、その社会性や人間性の復帰のために東京芸術劇場がもっとできることを、私も微力ながらお役にたてるように励んでいきたい」
岡田利規が語るキーワード「芸術の力」
一方の岡田は、作品上演に留まらず、社会共生事業やワークショップを「現実への応答」の柱として明確に位置づける方針だ。また、アクセシビリティ(鑑賞のしやすさ)の向上と、表現のクオリティを地続きのものとして捉え、より広い層へ舞台芸術を届けることを意識している。現在の世界情勢や社会のありように対し「このままでいいとは全く思えない」とした上で、次のように続けた。
「芸術の力を疑ってかかることを基本姿勢として、このポジションに臨みます。 それは芸術の力を信じているからです。
私が、このポジションを務めることを通してチャレンジしたいのは、私たち東京芸術劇場がこれから企画し、実践していくプロジェクトを通して、舞台芸術がこの社会の中に届いていく、刺さっていく、その文脈に変容を引き起こすことです。このコンセプトに基づいて公演事業を作っていきたいし、社会共生事業や人材育成事業、広報をしていきたいです」

監督たちの意外な共通点
会見中印象的だったのは両部門の連携で、二人の関係性を感じさせるやり取りが見てとれた。山田は、岡田との仕事をことのほか楽しみにしているようだ。
「芸術監督になって嬉しいことはたくさんありますが、一番嬉しいことと言っても過言ではないのは、岡田さんと一緒にお仕事できること。岡田さんの書かれた文章はものすごく哲学的で、言葉の選び方一つとっても随所にセンスが溢れていて、僕も文章を書く方ですがとてもかなわない。そんな素晴らしい方とご一緒できるのは本当に嬉しい。
そして、ふたりの違いがまた面白く。今日もちゃんと喋る内容を準備していらっしゃる岡田さんと、全く準備していない私、このコントラストが良い。そして、これまで芸術監督をされてきた野田秀樹さんとも、実は共通項がある。『野田、岡田、山田』と全員に『田』が入っている。そして『秀樹、利規、和樹』と全員『き』で終わる。この韻を踏んでいる3人の体制。野田さんがされてきた功績が大きいと思いますのでうまく引き継ぎたい。大変な仕事量ですけども、その分とてもエキサイティングで、すでに楽しい時を過ごさせていただいています」
ふたりはすでに劇場スタッフ一人ひとりとの面談を行うなど、組織改革にも着手している。
岡田利規、山田和樹、ふたりの「キ」ーマンが、東京の文化シーンにどのような「変動」と「共鳴」をもたらすのか──。東京芸術劇場の新たな歩みに期待したい。

東京芸術劇場
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