秋田の地から世界に向けて発信する音楽祭を〜「秋田・潟上国際音楽祭」が記者会見で概要を発表

ファビオ・アルミリアート、フィリップ・カサールらが出演

 2022年にスタートし、今年で5回目を迎える秋田・潟上(かたがみ)国際音楽祭(主催:秋田・潟上国際音楽祭実行委員会)の記者会見が、4月7日 秋田県庁で行われた。国内外のトップアーティストを秋田に招き、上質な音楽を届けてきた本音楽祭。会見では、同県潟上市出身の兄弟ピアニストで、実行委員長&アーティスティックディレクターの千田桂大(ちだけいた)、副委員長の千田浩太(こうた)らが、第5回のラインナップを発表し、この音楽祭が担う社会的な意義や理念について語った。

左より:小崎紘一、千田桂大、千田浩太

 音楽祭は短期間に集中して開催されるのではなく、年間を通じて公演を実施していく形がとられている。会場は、あきた芸術劇場ミルハス、アトリオン音楽ホールほか。4月5日にはすでに、プレ公演として、新旧ウィーン・フィルメンバーで構成される「ウィーン チェロ・アンサンブル」とソフィー・デルヴォー(ウィーン・フィル首席ファゴット奏者)による公演が行われたばかり。このあと、6月以降に5公演(4月7日時点)が予定されている。

 イタリア、フランス、独墺の音楽がバランス良く配されたラインナップはなかなかに豪華だ。7月4日の「第2回 オペラ名曲ガラ・コンサート」では、イタリアを代表するテノールの一人、ファビオ・アルミリアートが登場。プログラムは、プッチーニ〈星は光りぬ〉や〈誰も寝てはならぬ〉からモリコーネ〈ニュー・シネマ・パラダイス〉まで、おなじみの名旋律ばかり。ベテラン歌手による輝かしく力強い高音を存分に味わえるうえに、千田桂大(ピアノ)とともにバックを固めるのが、アレーナ・ディ・ヴェローナ管弦楽団で30年にわたりコンサートマスターを務めたグンテル・サニン(ヴァイオリン)と同楽団の首席チェリスト、サラ・アイロルディと、最高の布陣で楽しめるのが嬉しい。

 10月18日は、フランスの名ピアニスト、フィリップ・カサールによる能代市文化会館でのリサイタル。ナタリー・デセイとのデュオでも日本で根強い人気を誇るピアニストが、最も得意とするドビュッシーやシューベルトなどで、繊細で色彩感に富んだ演奏を聴かせる。

2025年の音楽祭より

 11月には、ドイツからレインハルト・ジーハファー(指揮)を招き、仙台フィルの特別公演も。独特の透明感を帯びた揺らめくサウンドが美しい武満徹「波の盆」で幕が開き、ベートーヴェンの交響曲第7番では躍動するリズムが聴きどころ。両曲のあいだには、リストがシューベルトの名作をピアノ&オーケストラ用に編曲した「さすらい人幻想曲」が置かれ、独奏を務める千田桂大のヴィルトゥオジティが最大限に発揮されるステージとなる。

 そのほか、次世代を担う子どもたちに向けた「本気のプログラム」として、奥村愛(ヴァイオリン)が登場して人気絵本『えんとつ町のプペル』の世界を朗読を交えて届けるファミリー向け公演(6/21)や、潟上市内の酒蔵を舞台に開催される、仙台フィルのヴァイオリン奏者 ヘンリ・タタルのリサイタル(9/20)も予定されている。

 千田桂大は、音楽祭は単なる「エンターテインメントではなく文化。自分自身の中に文化を持つことによって、他者に依存することなく、自ら初めて主体性を確立することができる」と話す。
「一人ひとりが主人公となって社会に参画し、多様性に富み持続可能な新しい街づくりが必要。今まさに日本、秋田が社会・経済のパラダイムシフトを迫られているのではないかと考えています」

 その視線は世界を見据えており、「新しい文化、経済システムの先駆けとして、秋田が日本をリードし、そして秋田から直接世界に、物事を発信していくことができる」と文化を起点とした変革という音楽祭の目的を熱のこもった言葉で語った。

 実際、こうした理念は、既に現実の動きとして実を結んでいる。11月の公演にも参加するジーハファーと千田桂大の個人的な交流がきっかけとなり、ドイツのアルトマルク音楽祭との提携が実現し、11月には行政・財界関係者からなるドイツ使節団の秋田訪問も予定されている。また、海外からの豪華な出演者の招聘も、音楽事務所を通さず、フランスを拠点に15年間ピアニストとして活動をした経験を持つ千田桂大自身が直接ヨーロッパに足を運び、さまざまな音楽家と互いの演奏に共鳴し合うことをきっかけに実現している。「演奏を聴いたアーティストが、直接交渉しにやって来る」という。

 制作の現場のみならず、全国の多くの音楽祭が行政や大手企業の支援に依存するなか、秋田の民間企業30社以上の協賛とチケット収入で運営されているのも、この音楽祭のユニークな点だ。千田桂大によれば、会見にも登壇した小崎紘一・音楽祭実行委員のと県内各地を車で廻り、まったくツテのない企業にも、地道に営業を行って協賛を募っているという。その苦労は並大抵のものではないようだ。
「文字通り“ドサ回り”です! 企業のトップには、まず会うまでが大変。そこでは、音楽の内容云々よりも、(その企業にとって)協賛する必然性は何か、ということが常に問われます。音楽祭を開催することによって、地域社会にどんなメリットがあるのか、ということを丁寧に説明しています」

2025年の音楽祭より

 弟の千田浩太も、家業の佃煮屋を経営しながら、社内に設置した文化事業部「アートオフィスサイチ」で音楽祭の制作に奔走する毎日だ。二人は、こうした独自の運営体制は「全国的にも他に例を見ないのではないか」と胸を張る。

 きりたんぽ、稲庭うどん、比内地鶏、日本酒⋯と美食の宝庫で、温泉や豊かな自然にも恵まれた秋田県。常に社会との関わりを強く意識しながら、「秋田でしかできない企画を世界へ発信していきたい」と、独自のスタンスをとる音楽祭が、回を重ねるごとに発展し、地域社会に欠かせない存在となることを期待したい。

取材・文:編集部

第5回 秋田・潟上国際音楽祭 2026
ファミリーで楽しむ クラシックの午後
6/21(日)13:30 秋田芸術劇場ミルハス(中)
奥村愛(ヴァイオリン) 千田桂大(ピアノ) 竹内恵(ピアノ、構成、編曲) 丸山有香(朗読)

第2回 オペラ名曲 ガラ・コンサート
7/4(土)14:00 秋田アトリオン音楽ホール
ファビオ・アルミリアート(テノール) グンテル・サニン(ヴァイオリン) サラ・アイロルディ(チェロ ) 千田桂大(ピアノ)

酒蔵コンサート ヘンリ・タタル、スラヴを奏でる
9/20(日)14:00 潟上/ギャラリー ブルーホール
ヘンリ・タタル(ヴァイオリン) 木下順子(ピアノ)

フィリップ・カサール ピアノ・リサイタル
10/18(日)14:00 能代市文化会館

仙台フィルハーモニー管弦楽団 特別講演 vol.4 レインハルト・ジーハファー✕千田桂大
11/14(土)14:00 秋田アトリオン音楽ホール
https://www.akimf.com