東京春祭2026、東京文化会館・小ホールの注目公演!――極上の音響で、親密な対話を愉しむ

ここでしか聴けない、豪華メンバー&個性際立つプログラム

 東京・春・音楽祭(以下東京春祭)は毎年多くの室内楽演奏会を様々な会場で開催しているが、そのメインとなるのが東京文化会館小ホールである。座席数649のこのホールは残響が多すぎることも少なすぎることもなく、クリアで潤いのある響きが空間全体に行き渡り、またステージを囲む扇状の客席配置ゆえに演奏者が近く感じられるという、まさに室内楽に相応しい会場である。東京春祭でもこれまでこのホールの利点を生かして、多くの忘れ難い室内楽演奏会が行われてきた。今年も聴き応え十分の多彩な企画が用意されており、ここではその幾つかを紹介したい。

 まずは開幕を飾る二夜連続の「オープニング・ガラ・コンサート」。こうしたガラ・コンサートは今年が初めてで、そこにはこれまでの室内楽公演の集大成という意味合いがあるのだろう。そのことは堀正文長原幸太川本嘉子をはじめ、これまで長年にわたってこの音楽祭の室内楽シリーズを支えてきた実力派ばかりが登場することに示されている。まさに豪華メンバーによる室内楽の饗宴といった観があり、プログラムは二夜ともにシューベルト、メンデルスゾーン、ブラームスといったドイツ・ロマン派の傑作が中心となっている。それだけに第二夜では吉井瑞穂のオーボエと鈴木大介のギターによるヘンデル、A.マルチェッロ、コストの二重奏作品や、甲斐栄次郎のバリトンによるラヴェルの歌曲とマスネのアリアというフランスものなど、ドイツ・ロマン派以外の作品を置いて変化を付けているのが心憎い。二夜ともに名手たちの息の合ったアンサンブルを期待できよう。

左上より:堀正文 ©青柳聡、長原幸太 ©井村重人、川本嘉子 ©Yoko Shimasaki、
吉井瑞穂 ©Marco Borggreve、鈴木大介 ©Orie Miyajima、甲斐栄次郎

 「東京春祭チェンバー・オーケストラ」はN響元コンサートマスターの堀正文を中心とする音楽祭独自の室内オケで、若手の実力ある奏者が多数加わってのフレッシュな演奏が高く評価されている。今回は「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」や「ハフナー」交響曲などモーツァルトのポピュラー名作を集めたプログラムで、このオケらしい自発的なアンサンブルを聴かせてくれるだろう。とりわけヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲では、堀と佐々木亮という大ベテラン2人のソロとオケとの生き生きしたやり取りが楽しみだ。

東京春祭チェンバー・オーケストラ ©藤本史昭

 古楽界の大御所トレヴァー・ピノックが出演する2つの演奏会も見逃せない。そのひとつはチェンバロ奏者としてフルートのエマニュエル・パユとバロック・チェロのジョナサン・マンソンと共演するもので、J.S.バッハのフルート・ソナタでの名手パユとのアンサンブルはとりわけ注目されよう。もうひとつは現在彼が首席指揮者を務める紀尾井ホール室内管弦楽団を振っての演奏会。管弦楽組曲第1番などのオール・バッハ・プロだが、興味深いのはチェンバロ曲であるパルティータの第1番と第5番の管弦楽編曲版(いずれも日本初演)が取り上げられることだ。このコンビは昨年の東京春祭でも「ゴルトベルク変奏曲」の管弦楽版を演奏して話題を呼んだ。バッハを知り尽くしたピノックだけに、作品の新しい可能性を編曲版から引き出してくれるに違いない。

左より:トレヴァー・ピノック ©Gerard Collett、紀尾井ホール室内管弦楽団

 「N響メンバーによる室内楽」は国立科学博物館で開催されることが恒例となってきたが、東京文化会館小ホールでも行われたことも何度かあり、今年は両方の会場が用いられる。博物館での弦楽四重奏に対し、文化会館小ホールに出演するのはブラス・アンサンブル(+打楽器)。20世紀の金管アンサンブル曲を中心とした多彩なプログラムでN響の金管の名手たちの名技が楽しめることだろう。ホールに響き渡るブラスの華麗なサウンドを堪能したい。

左上より:菊本和昭、安藤友樹、藤井虹太郎、池上亘、黒金寛行、吉川武典、池田幸広、竹島悟史

 一昨年と昨年の東京春祭で先鋭な演奏を聴かせた現代音楽の演奏団体アンサンブル・アンテルコンタンポランが、今年もまた音楽監督ピエール・ブルーズとともに出演する。2日にわたる演奏会では、クルターグ、岸野末利加、ベンジャミン、ノイヴィルト、サンダース、リームといった現代を代表する作曲家たちの様々な編成の作品が、考え抜かれた配列のうちに取り上げられる。各々の作品の持つ響きの世界とそこに込められたメッセージをその道のエキスパートたちがどのように描き出してくれるのか。「ハーメルンの笛吹き男」を現代的に翻案した物語による室内オペラ風のベンジャミン作曲《小さな丘へ》の日本初演はとりわけ興味深いものがある。

左より:ピエール・ブルーズ ©Sandrine Expilly、アンサンブル・アンテルコンタンポラン ©Quentin Chevrier

 ディオティマ弦楽四重奏団もまた現代音楽をレパートリーとする団体だ。2024年の東京春祭でシェーンベルクの弦楽四重奏曲全曲を1日で演奏するという離れ業をやってのけたことは記憶に新しい。今回前半に演奏されるのは20世紀イタリアの前衛作曲家ノーノの「断章―静寂、ディオティマへ」。題中のディオティマとはドイツの詩人ヘルダーリンの『ヒュペーリオン』のヒロインで、曲中にはヘルダーリンの詩の断片が随所に記されている。断片的に奏される音が緊張に満ちた静寂を生み出していく本作の音世界を、この作品題から名を取ったディオティマ弦楽四重奏団が鮮烈に表し出してくれるだろう。後半のベートーヴェンの弦楽四重奏曲第15番も彼らならではの先鋭なアプローチによる独自の表現が期待できそうだ。

ディオティマ弦楽四重奏団 ©michel nguyen

文:寺西基之


東京・春・音楽祭2026【ライブ配信あり】
オープニング・ガラ・コンサート 室内楽の夕べ〈第一夜〉

2026.3/13(金)19:00 東京文化会館(小)

●出演・曲目
シューベルト:ピアノ三重奏曲 変ホ長調 D897「ノットゥルノ」
 ヴァイオリン:堀正文
 チェロ:辻本玲
 ピアノ:野平一郎
ブラームス:ピアノ四重奏曲第1番 ト短調 op.25より
 ヴァイオリン:フェデリコ・アゴスティーニ
 ヴィオラ:店村眞積
 チェロ:原田禎夫
 ピアノ:加藤洋之
メンデルスゾーン:弦楽八重奏曲 変ホ長調 op.20
 ヴァイオリン:郷古廉、周防亮介、水谷晃、横溝耕一
 ヴィオラ:佐々木亮、篠﨑友美
 チェロ:辻本玲、横坂源

●料金(税込)
¥8,000(全席指定)
¥2,000(U-25)

オープニング・ガラ・コンサート 室内楽の夕べ〈第二夜〉

2026.3/14(土)18:00 東京文化会館(小)

●出演・曲目
ブラームス:クラリネット三重奏曲 イ短調 op.114より第1楽章(ヴィオラ版)
 ヴィオラ:川本嘉子
 チェロ:向山佳絵子
 ピアノ:伊藤恵
ヘンデル:歌劇《セルセ》第1幕より「オンブラ・マイ・フ」
A.マルチェッロ:オーボエ協奏曲より第2楽章「ベニスの愛」
コスト:山人の歌 op.34
 オーボエ:吉井瑞穂
 ギター:鈴木大介
ラヴェル:「ドゥルシネア姫に心を寄せるドン・キホーテ」
マスネ:歌劇《エロディアード》 より〈はかない幻よ〉
 バリトン:甲斐栄次郎
 ピアノ:平塚洋子
シューベルト:八重奏曲 ヘ長調 D803
 ヴァイオリン:長原幸太、直江智沙子
 ヴィオラ:鈴木康浩
 チェロ:富岡廉太郎
 コントラバス:池松宏
 クラリネット:金子平
 ファゴット:水谷上総
 ホルン:福川伸陽

●料金(税込)
¥8,000(全席指定)
¥2,000(U-25)

東京春祭チェンバー・オーケストラ

2026.3/19(木)19:00 東京文化会館(小)

●出演
東京春祭チェンバー・オーケストラ
 ヴァイオリン:堀正文、荒井章乃、荒井里桜、伊藤亮太郎、枝並千花、小川響子、北田千尋、五月女陽、外園萌香、的場桃、水野琴音、山内眞紀
 ヴィオラ:佐々木亮、川邉宗一郎、鈴木双葉、山本絵里奈
 チェロ:辻本玲、香月麗、佐藤晴真
 コントラバス:池松宏
 フルート:上野由恵、佐藤友美
 オーボエ:金子亜未、戸田智子
 クラリネット:松本健司、濱崎由紀
 ファゴット:宇賀神広宣、坂井由佳
 ホルン:日橋辰朗 、山岸リオ
 トランペット:長谷川智之、尹千浩
 ティンパニ:久保昌一

●曲目
モーツァルト:
 セレナード第13番 ト長調 K.525「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」
 ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調 K.364(ヴァイオリン:堀正文、ヴィオラ:佐々木亮)
 交響曲第35番 ニ長調 K.385「ハフナー」

●料金(税込)
¥6,000(全席指定)
¥2,000(U-25)

トレヴァー・ピノック(チェンバロ)と仲間たち
ジョナサン・マンソン(チェロ)、エマニュエル・パユ(フルート)を迎えて

2026.3/20(金・祝)15:00 東京文化会館(小)

●出演
チェロ:ジョナサン・マンソン
フルート:エマニュエル・パユ
チェンバロ:トレヴァー・ピノック

曲目
J.S.バッハ:
 フルートと通奏低音のためのソナタ ホ短調 BWV1034
 半音階的幻想曲とフーガ ニ短調 BWV903
テレマン:無伴奏フルートのための12のファンタジア第10番 嬰ヘ短調 TWV40:11
J.S.バッハ:
 フルートとオブリガート・チェンバロのためのソナタ ロ短調 BWV1030
 無伴奏チェロ組曲第1番 ト長調 BWV1007
 フルートと通奏低音のためのソナタ ホ長調 BWV1035

●料金(税込)
¥8,500(全席指定)
¥2,000(U-25)

トレヴァー・ピノック指揮 紀尾井ホール室内管弦楽団

2026.3/29(日)15:00 東京文化会館(小)

●出演
指揮/チェンバロ:トレヴァー・ピノック
管弦楽:紀尾井ホール室内管弦楽団

●曲目
J.S.バッハ:管弦楽組曲第1番 ハ長調 BWV1066
J.S.バッハ(T.エーラー編):パルティータ第1番 変ロ長調 BWV825(日本初演)
J.S.バッハ(レーガー編):コラール前奏曲「おお人よ、汝の罪の大いなるを嘆け」BWV622
J.S.バッハ(T.エーラー編):パルティータ第5番 ト長調 BWV829(日本初演)

料金(税込)
¥8,000(全席指定)
¥2,000(U-25)

N響メンバーによる室内楽

2026.3/21(土)18:00 東京文化会館(小)

●出演
トランペット:菊本和昭、安藤友樹、藤井虹太郎
トロンボーン:池上亘、黒金寛行、吉川武典
テューバ:池田幸広
打楽器:竹島悟史

●曲目
A.ブリス:スピリット・オブ・ジ・エイジ
J.S.バッハ(A.ブリス編):3つのコラール
ブリテン:聖エドマンズベリーのためのファンファーレ
A.バターワース:トリトン組曲 op.46
ウィンター:祝祭的ファンファーレ
ピルス:祝祭的音楽第1番
ブルックナー(ラーマー編):2つのエクアーレ
ヤコブ・デ・ハーン(K.P.ディール編):愛の協奏曲

●料金(税込)
¥5,000(全席指定)
¥2,000(U-25)

アンサンブル・アンテルコンタンポラン I

2026.4/4(土)19:00 東京文化会館(小)

●出演
アンサンブル・アンテルコンタンポラン
 ヴァイオリン:ジャンヌ=マリー・コンケ、カン・ヘスン
 ヴィオラ:オディール・オーボワン、ジョン・ストゥルツ
 チェロ:エリック=マリア・クテュリエ、ルノー・デジャルダン
 コントラバス:ニコラ・クロス
 フルート:ソフィー・シェリエ
 オーボエ:フィリップ・グラウフォーゲル
 クラリネット:ジェローム・コント、マルタン・アダメク、アラン・ビヤール
 トランペット:ルーカス・リパリ=マイヤー、クレマン・ソーニエ
 トロンボーン:ルーカス・ウニシ
 ツィンバロン:オーレリアン・ジニュー
指揮:ピエール・ブルーズ
ソプラノ:ジェニー・ダヴィエ
コントラルト:ジョアン・エヴァンス

●曲目
クルターグ:《サイン、ゲームとメッセージ》より
岸野末利加:オーカース、ノックス(金と銀)II
G.ベンジャミン:《小さな丘へ》(日本初演)

●料金(税込)
¥8,500(全席指定)
¥2,000(U-25)

アンサンブル・アンテルコンタンポラン II

2026.4/5(日)16:00 東京文化会館(小)

●出演
アンサンブル・アンテルコンタンポラン
 ヴァイオリン:ジャンヌ=マリー・コンケ、カン・ヘスン
 ヴィオラ:ジョン・ストゥルツ
 チェロ:エリック=マリア・クテュリエ、ルノー・デジャルダン
 コントラバス:ニコラ・クロス
 クラリネット:アラン・ビヤール、マルタン・アダメク
 ファゴット:マルソー・ルフェーヴル
 ホルン:ジャン=クリストフ・ヴェルヴォワット
 トランペット:ルーカス・リパリ=マイヤー
 トロンボーン:ルーカス・ウニシ
 ピアノ:セバスティアン・ヴィシャール
 ツィンバロン:オーレリアン・ジニュー
指揮:ピエール・ブルーズ
ソプラノ:ジェニー・ダヴィエ

●曲目
O.ノイヴィルト:フォンダメンタ II
クルターグ:ある小説からの15の情景 op.19
W.リーム:符帳 I,VI,VII
R.サンダース:息吹 II、blaauw / sinjo(ブラウ / シニョ)

●料金(税込)
¥8,500(全席指定)
¥2,000(U-25)

ディオティマ弦楽四重奏団

2026.4/11(土)19:00 東京文化会館(小)

●出演
ディオティマ弦楽四重奏団
 ヴァイオリン:ユン・ペン・ジャオ、レオ・マリリエ
 ヴィオラ:フランク・シュヴァリエ
 チェロ:アレクシ・デシャルム

●曲目
ノーノ:断章ー静寂、ディオティマへ
ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第15番 イ短調 op.132

●料金(税込)
¥7,500(全席指定)
¥2,000(U-25)

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