
Benjamin Alarm
チェンバロ
バンジャマン・アラールはバッハの鍵盤音楽作品集のディスク(Harmonia Mundi)が高い評価を得ているいわば古楽の王道をいく人だ。そんなフランスの名チェンバリストが、この秋にファリャの生誕150年を記念して浜離宮朝日ホールで「チェンバロ、フルート、オーボエ、クラリネット、ヴァイオリンとチェロのための協奏曲」(以下「チェンバロ協奏曲」)を中心とするコンサートを行う。バロックの名手がなぜファリャ?
実はアラールは、2023年にスペインの名指揮者パブロ・エラス=カサドの指揮するマーラー室内管弦楽団とファリャのアルバムで共演し、歌劇《ペドロ親方の人形芝居》やチェンバロ協奏曲で南欧のパッションと色彩に溢れた演奏を聴かせているのだ。フランスにいるアラールにオンライン・インタビューを行った。
「私はもともとファリャなど20世紀前半の音楽が大好きでした。それにファリャの協奏曲は作曲されて100年を経ているので、すでに『古楽』と言えます。とりわけこの曲は、私の愛する古楽の様式の影響を受けています。ファリャが生きたのはいわば古楽復興が起った新古典主義の時代で、彼もまた古い時代の作曲家たちを敬愛し、過去の音楽を蘇らせようと努めました。その伝統は今でも途切れることなく続いています。新鮮な視点でこの作品を演奏し、生まれ変わらせる好機だと思っています」
ここで登場するのが、20世紀初頭のチェンバロ復興の立役者でプーランクなど多くの音楽家にその魅力を伝えたワンダ・ランドフスカ。
「ファリャはおそらく1921年か22年にグラナダでランドフスカの弾くバッハやスカルラッティを聴いて、26年にチェンバロ協奏曲を書き、彼女によって初演されました。協奏曲はバロックの合奏協奏曲を思わせるスタイルで、グレゴリオ聖歌の旋律やスカルラッティのソナタ(K.461)に似たリズムが用いられています」
ランドフスカのチェンバロは今日一般的なヒストリカルな楽器とは違う。フランスのピアノメーカー、プレイエルに特別に作らせたいわゆるランドフスカ・モデルで、アラールもCDでは1920年代の楽器を弾いている。
「セヴィリア在住の友人が、グラナダのファリャ財団に良い楽器があると教えてくれました。実際、非常に美しい状態の楽器で重厚な低音が魅力です。もちろんヒストリカルな楽器とは違いますから、演奏技術や音楽面で異なったアプローチをしなければなりません。そこでフャリャ財団の研究者に話を聞き、作曲家の自筆譜も見ました。ファリャの住んでいたグラナダなどの土地に行き、アンダルシアの文化を目の当たりにして音楽の見方や音楽観が変わりました」
今回の浜離宮朝日ホールの公演では、1970年代まで主流だったモダン・チェンバロ(ノイペルト製バッハ・モデル)を使う予定。もう一つファリャといえば、国民的な詩人ロルカらとフラメンコ復興に努めた人でもあった。
「第1楽章にはアンダルシアの民謡の旋律が使われています。実はフラメンコも大好きで、グラナダの音楽祭でフラメンコのダンサー、イスラエル・ガルバンと共演する経験もしました。今年はファリャ生誕150年、協奏曲の初演から100年に当たるので、ファリャ研究の第一人者イヴァン・ノミック氏からアドバイスをいただいて、この曲を中心とした特別なプログラムを用意しました。協奏曲に因んでスカルラッティのソナタやスペイン民謡や聖歌の編曲の他、スペインの作曲家ホセ・マリア・サンチェス=ベルドゥ(1968年〜)による室内楽作品『奇妙な島々』もとりあげます。ファリャの協奏曲では1台のチェンバロでオーケストラを表現します。そこで同様のアイディアによるバッハの『イタリア協奏曲』を弾きます」
共演者も注目だ。ベルリン・コンツェルトハウス管と読響のコンサートマスターを兼務する日下紗矢子や海外で活動した後に東京藝大で後進の指導に当たるチェロの中木健二、約20年間マーラー室内管の首席オーボエ奏者を務めた吉井瑞穂、読響首席クラリネット奏者の金子平、N響フルート奏者の梶川真歩ら。ファリャ生誕記念年に忘れえぬコンサートとなることだろう。
取材・文:那須田 務
(ぶらあぼ2026年8月号より)
バンジャマン・アラールと精鋭たち
2026.10/14(水)19:00 浜離宮朝日ホール
出演/バンジャマン・アラール(チェンバロ)、日下紗矢子(ヴァイオリン)、中木健二(チェロ)、梶川真歩(フルート)、吉井瑞穂(オーボエ)、金子 平(クラリネット)
曲目/ファリャ:チェンバロ協奏曲
サンチェス=ベルドゥ:奇妙な島々
スカルラッティ:ソナタ K.159, 461, 208, 118
J.S.バッハ:イタリア協奏曲 BWV971 他
問:朝日ホール・チケットセンター03-3267-9990
https://www.asahi-hall.jp/hamarikyu

