
10月25日、イタリアのジェノヴァで第58回パガニーニ国際ヴァイオリンコンクール(審査委員長:ウート・ウーギ)の最終審査が行われ、吉本梨乃が第2位に入賞した。優勝は、今年の仙台国際音楽コンクールでも第3位に入賞していたジャン・アオジュ。過去の優勝者にはギドン・クレーメル、レオニダス・カヴァコス、イザベル・ファウストらが名を連ねており、1999年には庄司紗矢香が史上最年少の16歳で、日本人として初優勝したことでも知られている。
ファイナルでは、フィリップ・フォン・シュタイネッカー指揮カルロ・フェリーチェ劇場管弦楽団の伴奏で、吉本はトップバッターとして登場。パガニーニの第1番、ブラームスの二つの協奏曲を演奏し、いずれも観客から大きな拍手を受けた。

吉本から届いたメッセージを紹介しよう。
このたび、第58回パガニーニ国際ヴァイオリンコンクールにて第2位を受賞いたしました。
パガニーニの故郷ジェノヴァで演奏できたこと、そして今まで素晴らしい音楽家を輩出してきた権威あるコンクールでこのような結果をいただけたことを心から光栄に思います。
今回のコンクールでは、尊敬する庄司紗矢香さんをはじめ、多くの素晴らしい審査員の先生方の前で演奏するという貴重な経験をさせていただきました。
この1ヶ月は、求められるレパートリーの多さに加え、他のコンサートも重なり、精神的にも体力的にも大きな挑戦でした。
しかし、家族や友人の存在に支えられ、ファイナルを終えた瞬間には涙が溢れるほど、最後まで自分のベストを尽くして挑戦できたことを嬉しく思います。
パガニーニは私の大好きな作曲家の1人です。
10代初めの頃から、それを言い続けてきましたが、「テクニックをひけらかすタイプの人か」「音楽性がないんだな」「指早く回りそうだし梨乃ちゃんぽいね」などと言われたことも多々あり悔しい思いをしてきました。私がパガニーニを好きな理由は、ヴァイオリンのいろんな面を見せてくれる超絶技巧はもちろんですが、それよりもイタリアオペラのような、私の大好きなイタリアに降り注ぐ温かい太陽のようなメロディ、人々を幸せにする音楽です。他の作曲家に比べて演奏者に求められる深みは少ないかもしれませんが、パガニーニにしかないイタリアらしさ、オペラのような楽しさがあると思っています。それを今回、評価していただくことができたこと、また2次や、セミファイナルでのシューマンやベートーヴェンなど他の曲で、パガニーニが好きな人でも深みのある音楽は奏でられるということを証明できてとても嬉しく思っています。
2次予選では、ブリュッセルから駆けつけてくれた素晴らしい友人でありピアニストのセルゲイと共に演奏したシューマンのソナタを、多くの審査員の先生方に高く評価していただきました。
とりわけ、審査委員長のウート・ウーギ氏から「生涯忘れられない演奏だった」と言葉をいただけたことは、今も胸に深く残っています。
私が音楽家でありたいと思う原点である、人と音楽の喜びを分かち合う素晴らしさを改めてコンクールを通じて感じることができました。
この経験を糧に、これからも音楽の喜びを、世界中のより多くの人と分かち合えるよう頑張ります。

吉本は、2003年神戸市生まれ。14歳で欧州に渡り、ウィーン国立音楽大学でミヒャエル・フリッシェンシュラガーに、ベルギーのエリザベート王妃音楽院ではオーギュスタン・デュメイに師事。ヨーロッパで研鑽を積みながら、東京音楽大学附属高等学校も卒業している。2022年のフリッツ・クライスラー国際ヴァイオリンコンクールで第2位に入賞するなど、国内外のコンクールで受賞歴を持つ。ソリストとしても国内の主要楽団やウィーン放送響と共演するなど国際的に活躍している。2022年にはウィーン国立歌劇場管弦楽団のサブスティテュート(代理奏者)試験に合格し、オーケストラの一員としても経験を積んだ。
若手ヴァイオリニストのための世界的な登竜門として知られる同コンクール。今後の活躍に注目したい。
文:編集部
58th International Violin Competition“Premio Paganini”
https://www.premiopaganini.it

