Helmuth Rilling 1933-2026
ドイツの指揮者でバッハ研究者としても知られたヘルムート・リリングが2月11日、亡くなった。92歳だった。

1933年シュトゥットガルト生まれ。シュトゥットガルト音楽大学在学中の1954年に、数人の歌手とともにゲヒンガー・カントライを結成、65年にはオーケストラ、バッハ・コレギウム・シュトゥットガルトも創設した(現在、両者はゲヒンガー・カントライとして統合されている)。67年にはニューヨークでレナード・バーンスタインに師事。70年代に入ると、オレゴン・バッハ音楽祭を始動させて成功を収め、2013年まで芸術監督を務めた。
1981年には、演奏家や研究者が集う拠点として、シュトゥットガルト国際バッハ・アカデミー を設立し、これが活動の中核となった。カンタータや受難曲など合唱曲の分野におけるアプローチは、多くの音楽家にとって指標となった。教育者、指揮者としてヨーロッパやアメリカでマスタークラスや公演をたびたび行い、多くの若い音楽家の育成にあたった。その活動は世界各国でのバッハ・アカデミーの設立にも繋がることになる。
リリングの功績を語るとき、最も重要なのは、膨大な数に上る録音だろう。バッハの没後250年だった2000年には、200曲以上に及ぶカンタータ全曲録音の偉業を成し遂げた最初の指揮者となった。飽くなき探究心で、モダン楽器でバッハの本質をいかに表現するかを追求したが、2000年代に入ってからはピリオド楽器のアンサンブルにも取り組んだ。
レパートリーはバロックにとどまらず、ロマン派から現代にまで及んでいる。メンデルスゾーンのオラトリオやブラームスのレクイエムなどドイツ・プロテスタント音楽の系譜に連なる分野で優れたレコーディングを残す一方、オレゴン・バッハ音楽祭の委嘱で1998年に世界初演したライブ録音CD『ペンデレツキ「クレド」』は大きな話題を呼び、グラミー賞最優秀合唱演奏賞を受賞した。1990年代にはアルヴォ・ペルトとも協働しているほか、今世紀に入ってからも、ヴォルフガング・リームやブリテン、グバイドゥーリナなども録音している。
演奏活動だけでなく、研究との両面でバッハの全貌を伝えてきたその功績は大きい。ピリオド楽器での演奏が主流となる過渡期にあって、モダン楽器での演奏を追い求めた彼のバッハ像は、“古き良き時代のバッハ”として、多くの音楽ファンの記憶に刻まれるだろう。
最後に、バッハ・アカデミーのウェブサイトに掲載されているリリングの言葉を紹介する。
「音楽は決して安楽なもの、あるいは古びた博物館のようなものであっても、気休めであってもなりません。音楽は人を揺さぶり、一人ひとりの心に深く届き、思索へと向かわせるものでなければなりません」
Internationale Bachakademie Stuttgart
https://www.bachakademie.de
