高坂はる香のワルシャワ現地レポート 第10回
取材・文:高坂はる香
※演奏後のコメントと結果発表後の合同インタビューからのまとめです
──コンクールを経て、ショパンに対する知識や気持ちに変化はありましたか?
あったと思います。たくさんの作品に取り組んだことで、ショパンに少し近づけたような気がしています。さまざまな種類のショパンの作品を勉強して得たものを合わせていくことで、全体像が見えてきたのだと思います。特にファイナルで求められる幻想ポロネーズは、勉強すること、経験することがとても大切なのだろうと感じました。
ショパンはもともと僕のお気に入りの作曲家の一人でしたが、長い間彼の音楽に取り組んだことで、その思いが一層強くなりました。

──今回の入賞があなたのキャリアにどのような影響を与えると思いますか?
まだはっきりとは分からないんです。何を期待すればいいのかもわかりません。正直、ファイナルに進んで2位をいただけるなんてまったく予想していませんでしたから。
──3週間にわたるコンクールの期間、どのように過ごしていましたか? 良いコンディションを保つために心がけたことはあるのでしょうか。
とても充実した3週間だったと思います。ただコンクールが非常に長いため、各ラウンドの合間に集中力を保ち続けることが大変でした。実は2次のあと少し体調を崩して、3次も序盤はあまり調子がよくなかったのですが、なんとか頑張れたと思います。価値のある経験でした。

──これまでさまざまなコンクールで優勝されてきていますが、今、ショパンコンクールのどんなところが他とは違うと感じていますか?
最も明らかな違いはもちろんレパートリーです。すべてがショパンであり、まずはそこが多くの他のコンクールとは一線を画すところです。
というのも、コンテスタントは普通、コンクールのレパートリーとしてショパンをあまり選ばないと思いますから。ショパンの作品は、非常に有名でたくさん耳にする機会があります。それぞれが自分なりの強い見解を持っていることが多いし、演奏方法についても皆意見が異なります。つまり、議論を呼ぶ要素がたくさんあるのです。その意味で、コンクールでショパンを弾くことにはリスクがあります。
そんなショパンだけを弾かなくてはならないのですから、僕にとって今回の挑戦は特別でした。

──近い将来について、もしくはさらにもっと先の将来について考えていることはありますか?例えば、5年後にアーティストとしてどうなっていると思いますか?
5年はずいぶん先の話に感じますが! 正直、その時自分の人生がどうなっているかはわかりません。これまで通りに、一歩一歩ゆっくり進んでいきつつ、自分がどこに向かうのかを見ていこうと思っています。
それにまだ今は今夜のガラコンサートのことを考えているので!
──では、今夜のガラコンサートでは何を弾くのですか?
プレリュード6曲と他の曲を組み合わせるつもりです。2次では最初にop.28のプレリュードを6つ弾いて、ポロネーズを挟み、op.10のエチュード全曲を弾きました。
このプログラムは自分でも面白いと思っていて、こんなふうに24のプリュードから中間の6曲だけを選ぶプログラムというのは、このコンクールの課題がなければ自分では考えつきません。でも、やってみたらとてもうまくいきました。op.28-7から始めるのはなかなか良いなと思いました。

──1次のプログラムは、暗い作品ばかりで素敵でした。なぜあのような選択になったのですか?
まずノクターン op. 48-1はずっとお気に入りの作品なので、選択肢に入っているのを見てためらうことなく選びました。それを決めたら、あとの作品は自然と集まってきたように思います。
──ではご自身が共感するのは、ショパンの若い頃と晩年、どちらの作品ですか?
両方ですね。暗さというのはショパンの人生においてとてもシンボリックな要素です……戦争や健康の問題など辛い経験をしている人ですから。それを知って弾くことは不可欠です。
──そういう暗さに共感するのですか?
たぶん、そうなんだと思います。
──……これまでの人生でひどい経験したわけではないですよね??
それはないです!(笑) 全ておなじことを経験しなくてはならないわけではないと思うので……想像して感じることもできると思います。
──ショパンの曲はあまりにも誰もが知っているとおっしゃっていましたが、そのなかで、どうやって自分だけのショパンの解釈を見つけるのでしょうか? 楽譜を読むだけなのか、それとも他の情報を学ぶことで見つけていくのでしょうか。
基本的には楽譜からですが、時間が経つうちに自然と理解が深まって行ったという感覚はあります。この1年間ずっとショパンの曲に親しんできて、以前よりも彼に少し近づき、そこからインスピレーションを得ているんだと思います。

──ところで、どのようにピアノを始めたのですか?
自分ではあまり覚えていませんが、子どもの頃、家に簡単なメロディやリズムが流れるキーボードがあって、私は2歳くらいの頃、それをおもちゃのようにして遊んでいたようです。ずいぶんと楽しそうに遊んでいる私の様子に両親が気づいたことがきっかけのようです。
──今回はスタインウェイのピアノを選んでいました。ピアノはいかがでしたか? 5台の中から選ぶのは簡単でしたか?
とても良いピアノでした。全部のピアノに触れてみて選んだので、決めることは簡単ではありませんでした。鍵盤の深さが思ったより少し深いと感じましたが、慣れるのはそんなに難しくなく、とても弾きやすいピアノでした。

ホテルからホールまで徒歩10分ほどはかかりますが、いつも付き添いのお父さまが(この写真ではコンクール事務局スタッフが持っています)ハンガーに吊るした衣装をそのまま手で持ってきているのが印象的でした!
Chopin Competition
https://www.chopincompetition.pl/en
【Information】
第19回ショパン国際ピアノ・コンクール2025 優勝者リサイタル
2025.12/15(月)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
2025.12/16(火)19:00 東京芸術劇場 コンサートホール
第19回ショパン国際ピアノ・コンクール 2025 入賞者ガラ・コンサート
2026.1/27(火)、1/28(水)18:00 東京芸術劇場 コンサートホール
2026.1/31(土)13:30 愛知県芸術劇場 コンサートホール
出演
第19回ショパン国際ピアノ・コンクール入賞者(複数名)、アンドレイ・ボレイコ(指揮)、ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団
他公演
2026.1/22(木) 熊本県立劇場 コンサートホール(096-363-2233)
2026.1/23(金) 福岡シンフォニーホール(092-725-9112)
2026.1/24(土)大阪/ザ・シンフォニーホール(ABCチケットインフォメーション06-6453-6000)
2026.1/25(日) 京都コンサートホール(ABCチケットインフォメーション06-6453-6000)
2026.1/29(木) ミューザ川崎シンフォニーホール(神奈川芸術協会045-453-5080)


高坂はる香 Haruka Kosaka
大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動。雑誌やCDブックレット、コンクール公式サイトやWeb媒体で記事を執筆。また、ポーランド、ロシア、アメリカなどで国際ピアノコンクールの現地取材を行い、ウェブサイトなどで現地レポートを配信している。
現在も定期的にインドを訪れ、西洋クラシック音楽とインドを結びつけたプロジェクトを計画中。
著書に「キンノヒマワリ ピアニスト中村紘子の記憶」(集英社刊)。
HP「ピアノの惑星ジャーナル」http://www.piano-planet.com/








