絶好調! カーチュン&日本フィルのコンビが挑むオール・ショスタコーヴィチ

左より:カーチュン・ウォン ©Ayane Sato/小川典子 ©Patrick Allen operaomnia.co.uk/オッタビアーノ・クリストーフォリ ©井村重人

 日本フィルと首席指揮者カーチュン・ウォンが、ショスタコーヴィチ・プロに挑む。作曲者没後50年の今年、選ばれたのはピアノ協奏曲第1番と交響曲第11番「1905年」。

 完璧なタクトと緻密な彫琢で高水準の演奏を連続しているカーチュンと、持ち前のハートに演奏水準の向上も顕著な日本フィルとのコンビは絶好調の状態で、彼らの「11番」というだけでも大いに耳目を集める。

 ただ、日本フィルのショスタコーヴィチといえば、高精度にして強靭、凄絶極まりない剛演を重ねた、現在桂冠指揮者兼芸術顧問のアレクサンドル・ラザレフが浮かぶ向きも多いだろう。特に彼らの「11番」は語り草となっている。筆者も客席であまりの壮絶さに頭の中が真っ白になったほどで、まさしく世界最高峰の超絶名演だった。

 そして今回、あえて選ばれた「11番」。オケを妥協なく鍛えて最高の成果をあげることにかけては、カーチュンもラザレフに劣らない。日本フィルに残るショスタコーヴィチ演奏のDNAを、どう磨き上げ、カーチュン流に再構築していくのか。いずれにせよ、新たな「11番」の歴史を刻む、特別な演奏になるのは間違いない。

 前半の協奏曲も期待大。ピアノは経験豊富な名手、小川典子。彼女の巧みな表現と技巧のきらめきと共に、本作のもう一人のソリスト、同楽団ソロ・トランペット奏者オッタビアーノ・クリストーフォリの爽快な“吹きっぷり”も楽しみ。役者がそろった本作の面白さは格別だ。

 ショスタコーヴィチ没後50年を代表する公演となる予感。必聴というほかない。

文:林 昌英

(ぶらあぼ2025年10月号より)

カーチュン・ウォン(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団
第774回 東京定期演奏会 
2025.10/17(金)19:00、10/18(土)14:00 サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 
https://japanphil.or.jp


林 昌英 Masahide Hayashi

出版社勤務を経て、音楽誌制作と執筆に携わり、現在はフリーライターとして活動。「ぶらあぼ」等の音楽誌、Webメディア、コンサートプログラム等に記事を寄稿。オーケストラと室内楽(主に弦楽四重奏)を中心に執筆・取材を重ねる。40代で桐朋学園大学カレッジ・ディプロマ・コース音楽学専攻に学び、2020年修了、研究テーマはショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲。アマチュア弦楽器奏者として、ショスタコーヴィチの交響曲と弦楽四重奏曲の両全曲演奏を達成。