
6月12日、指揮者の山田和樹が、ついにベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の定期演奏会に登場した。
その前にやはり触れておきたいのが、4月下旬に発表された、山田が2026/27年シーズンからベルリン・ドイツ交響楽団の首席指揮者兼芸術監督に就任するというニュースだ。昨年4月と9月に山田はベルリン・ドイツ響を指揮して大きな評判を呼び、わずか2回の客演でこのポジションを射止めた。つまり、首都ベルリンのもうひとつの重要なオーケストラの次期首席指揮者として、ベルリン・フィルにデビューすることになったのである。この数奇ともいえる巡り合わせは、今回の初共演に少なからず好影響を与えたのではないかと思う。
実際、デビュー公演の初日にもかかわらず、フィルハーモニーの指揮台に立った山田は、筆者がこれまで聴いたドイツやフランス語圏のオーケストラとの共演のときと同じようにリラックスしていると感じた。冒頭のレスピーギ「ローマの噴水」では、山田独特の丸みをおびた棒により、時に鋭さが前面に出るキリル・ペトレンコの音作りとはまたちがう、やわらかな響きがベルリン・フィルから生まれる。ほら貝の吹奏を模したホルンで始まる「朝のトリトンの噴水」から「真昼のトレヴィの噴水」にかけての推進力のある音は、このオケならでは。最後の「黄昏のメディチ荘の噴水」では、ドミニク・ヴォレンヴェーバーの奏でるイングリッシュホルンの音色が夕暮れの情景のなかで溶け合いながら、締めくくられた。

これに続いたのは、水とのつながりから選ばれたという武満徹の「ウォーター・ドリーミング」。先ほどまで「ローマの噴水」で鳥の音色を奏でていたエマニュエル・パユが、今度はソリストとして登場し、ふとく広がりのある音をフィルハーモニーの空間いっぱいに響かせた。西と東の垣根を取っ払ったようなこの夢幻的な音楽が、山田の指揮によりベルリン・フィル初演されたのもうれしい出来事だった。
後半のサン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」で、山田はオーケストラをドライブし、いっそう求心力のある演奏を展開した。第2楽章でセバスティアン・ハインドルのオルガンが加わると、フィルハーモニーは宗教的ともいえる恍惚とした音色に包まれる。ドラマティックかつ立体的に鳴り響くアレグロ・モデラートを経て、オルガンの導入によるフィナーレ部分に入ると、いよいよヤマカズの本領発揮。自在に仕掛ける山田の棒に導かれ、最後はオーケストラの方が必死に喰らい付いていくような趣で、ホール全体が熱狂の渦と化した。

この日コンサートマスターを務めたノア・ベンディックス=バルグリーと同じプルトで弾いた町田琴和が、カーテンコールで山田と握手を交わす姿は、彼らのたしかな充実感を物語っていた。
取材・文:中村真人(音楽ジャーナリスト/ベルリン在住)
デジタル・コンサート・ホールでは後日アーカイブを放送予定
山田和樹さん今後の公演予定
山田和樹指揮 バーミンガム市交響楽団
2025.6/30(月)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
ショスタコーヴィチ:祝典序曲 イ長調 op.96
エルガー:チェロ協奏曲 ホ短調 op.85[チェロ:シェク・カネー=メイソン]
ムソルグスキー(ヘンリー・ウッド編):組曲「展覧会の絵」
7/1(火)19:00 サントリーホール
ラヴェル:ラ・ヴァルス
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 op.18[ピアノ:河村尚子]
チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調 op.64
7/2(水) 19:00 サントリーホール
ショスタコーヴィチ:祝典序曲 イ長調 op.96
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第4番 ト短調 op.40[ピアノ:イム・ユンチャン]
ムソルグスキー(ヘンリー・ウッド編):組曲「展覧会の絵」
7/4(金)19:00 アクロス福岡シンフォニーホール
ラヴェル:ラ・ヴァルス
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第4番 ト短調 op.40[ピアノ:イム・ユンチャン]
チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調 op.64
7/5(土)15:00 ロームシアター京都 メインホール
ショスタコーヴィチ:祝典序曲 イ長調 op.96
エルガー:チェロ協奏曲 ホ短調 op.85[チェロ:シェク・カネー=メイソン]
ムソルグスキー(ヘンリー・ウッド編):組曲「展覧会の絵」
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212
https://www.japanarts.co.jp
他公演
2025.6/28(土) 愛知県芸術劇場コンサートホール(CBCテレビ事業部052-241-8118)
6/29(日) 兵庫県立芸術文化センター(0798-68-0255)
7/6(日) 横浜みなとみらいホール(神奈川芸術協会045-453-5080)
※公演により出演者、曲目は異なります。各公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。