【CD】オルガンの銘器を訪ねて Vol.5/武久源造

 武久源造のディスクは、いつも知見と感性とが手を携えての深みに聴き手を誘う。本人によるライナーノーツは洞察と分析力で認識の次元を上げ、演奏はそれを証明するのみならず、当方の知覚領域を押し広げる感覚の鋭敏さがある。当盤では松山の聖カタリナ学園のホールに設置された、須藤宏製作の歴史的な銘器を弾く。明晰だが暖かく味わい深い音色を駆使してのJ.S.バッハ、ギルマン、フランク。現世的な楽しさのギルマンを挟んで、最晩年のバッハとフランクの音楽が対置される。バッハが晩年に到達した高みが存分に開示され、フランクの3つのコラールではオルガンが人の声の雄弁さで語りかける。
文:矢澤孝樹
(ぶらあぼ2025年7月号より)

【information】
CD『オルガンの銘器を訪ねて Vol.5/武久源造』

J.S.バッハ:コラール編曲「あなたの玉座の前に 私は進み出て」、前奏曲とフーガ BWV547、コラール・ファンタジア「来れ聖霊 主なる神」/ギルマン:ヘンデルの主題によるマーチ/フランク:3つのコラール

武久源造(オルガン)

コジマ録音
ALM-1227 ¥3300(税込)



矢澤孝樹 Takaki Yazawa

1969年山梨県塩山市(現・甲州市)生。慶應義塾大学文学部卒。水戸芸術館音楽部門主任学芸員を経て現在ニューロン製菓(株)及び(株)アンデ代表取締役社長。並行して音楽評論活動を行い、『レコード芸術online』『音楽の友』『モーストリークラシック』『ぶらあぼ』『CDジャーナル』にレギュラー執筆。朝日新聞クラシックCD評選者および執筆者。CD及び演奏会解説多数。著書に『マタイ受難曲』(音楽之友社)。ほか共著多数。