5月31日、第6回東京国際ヴィオラコンクールのファイナル・ラウンドが行われ、中国のイーシュウ・リンが第1位、笠井大暉が第2位、カナダのエマド・ゾルファガリが第3位に入賞した。

©藤本史昭
1992年、世界的奏者・今井信子の提唱により誕生したヴィオラの祭典「ヴィオラスペース」の一環として、2009年に創設された同コンクール。アジア唯一のヴィオラ単独の国際コンクールとして3年に一度開催され、優れた奏者を多数輩出している。5月23日からスタートした第6回は、予備審査をクリアした34名が第1次審査に出場。12名が第2次審査に進み、うち6名がセミ・ファイナリストに選出。そしてセミファイナルを通過した、前述の3名が最後の審査の舞台でしのぎを削った。
審査委員長は、昨年より「ヴィオラスペース」のプログラミング・ディレクターに就任したN響首席奏者・佐々木亮が務め、川崎雅夫(アメリカ/日本)やサンジン・キム(韓国)、マテ・スーチュ(ハンガリー)ら世界で活躍するヴィオラ奏者が審査にあたった。
最終結果は以下の通り。
ヴィオラスペース2025 vol.33
第6回東京国際ヴィオラコンクール
第1位:イーシュウ・リン Yixiu Lin(中国)
第2位:笠井大暉 Hiroki Kasai(日本)
第3位:エマド・ゾルファガリ Emad Zolfaghari(カナダ)
〈特別賞〉
聴衆賞:笠井⼤暉
サントリー芸術財団賞(邦⼈作曲家作品において優れた演奏をした出場者に贈呈):和⽥志織(日本)
ヒンデミット賞(第2次審査においてヒンデミット作品の優れた演奏をした出場者に贈呈):和⽥志織
奨励賞:エマド・ゾルファガリ
名古屋フィルハーモニー交響楽団賞(2026年以降の同団演奏会にソリストとして協奏曲を演奏):イーシュウ・リン
日本人唯一の入賞を果たした笠井は、1999年ロンドン生まれ。幼少期よりヴァイオリンを学び、英国王立音楽院でロドニー・フレンドに師事。2022年、小澤征爾スイス国際アカデミーに参加した際に今井信子の勧めを受けヴィオラに転向、現在ソフィア王妃高等音楽院(スペイン)で今井に学んでいる。2024年、第30回ヨハネス・ブラームス国際コンクールで優勝を果たし、室内楽奏者としても五嶋みどり、庄司紗矢香、内田光子ら世界的奏者と共演を果たすなど、すでに著しい活躍をみせている。

ファイナル終了後に行われた記者会見では、入賞者3名ならびに審査委員らが出席。笠井は次の通りコメントした。
「今回のコンクールは長丁場でしたので、『ようやく終わってほっとしている』というのが正直な気持ちです。およそ2年半前、小澤征爾スイス国際アカデミーで友人の楽器を借りて遊んでいたところをたまたま今井信子先生にお聴きになっていて、『ヴィオラを弾いてみれば?』と仰ってくださったことがこの楽器に惚れ込むきっかけとなりました。それから2ヵ月ほどで転向して以来、今日に至るまでいつも信子先生に支えていただきました。残念ながらここに来ることは叶いませんでしたが※、自分にとって“ヴィオラのお母さん”と言っても過言ではない先生に、この賞を捧げたいと思います」
※今井は「ヴィオラスペース」ガラ・コンサート(5/28,5/30)への出演を予定していたが、体調不良のため来日を控えることとなった
一方、佐々木は以下のように審査の感想を述べつつ、入賞者ををねぎらった。
「今回のコンテスタントの皆さんは本当にそれぞれ良いところがあり、次のラウンドに進める人を選ばないといけない、というのは痛みを伴う作業でした。その中でも、ここにいるお三方は平均していつも非常に高い芸術性を示されていました。“今日のところは”こういった順位になりましたが、別の日に演奏していたら違った結果になったのでは……というぐらい、それぞれ優れたポテンシャルを持っていらっしゃると思いますので、この先も頑張っていってほしいです」

翌日に開催された入賞記念コンサートでは、リンが安良岡章夫「ノヴェッラ・カプリッチョーザ」(第6回 東京国際ヴィオラコンクール委嘱作品)、笠井がヒンデミットの無伴奏ヴィオラソナタ op.31-4、ゾルファガリがノックス「無伴奏ヴィオラのための“Fuga libre”」(第1回 東京国際ヴィオラコンクール委嘱作品)などをそれぞれ披露。また、長年ヴィオラを演奏する天皇陛下も本公演を鑑賞され、入賞者の演奏に惜しみない拍手を贈られた。
入賞者は、2026年または2027年の「ヴィオラスペース」への出演が予定されている。


文:編集部
写真提供:東京国際ヴィオラコンクール実行委員会
東京国際ヴィオラコンクール
Tokyo International Viola Competition
https://tivc.jp