In memoriam 小林武史

Takeshi Kobayashi 1931-2025

 ヴァイオリニストの小林武史が5月19日、膀胱がんのため亡くなった。享年94。

Takeshi Kobayashi

 小林は1931年インドネシアのスマトラ島生まれ。鈴木慎一に師事し、戦後間もない1949年に毎日音楽コンクール(現日本音楽コンクール)のヴァイオリン部門で優勝。1951年にデビューした。24歳の若さで東京交響楽団のコンサートマスターに就任。その後、1960年代には、チェコ国立ブルノ・フィル、オーストリアのリンツ州立ブルックナー管弦楽団のコンサートマスターを歴任。帰国後には、読響のコンサートマスターとなった。同楽団の音楽監督も務めるが1971年には退団、ソロ活動に専念する。

 国内のみならず、ヨーロッパ、中近東、東南アジアなど、世界各地でリサイタルを行い、「プラハの春」をはじめとする著名な音楽祭にも招かれた。 国際交流基金派遣の文化使節としての派遣は10回以上に及ぶ。ハチャトゥリアンのヴァイオリン協奏曲(ピアノ伴奏版)やショスタコーヴィチのバイオリン協奏曲第2番、エネスコのヴァイオリン・ソナタ第3番、マニャールのヴァイオリン・ソナタなどの日本初演者としても知られる。1984年には、室内合奏団「コレギウム・ムジクム東京」を結成した。

 また、特筆すべきは、伊福部昭、團伊玖磨といった、同時代を生きた作曲家との交流。1979年には、伊福部のヴァイオリン協奏曲第2番をブルノで初演。團の「ヴァイオリンとオーケストラのためのファンタジア第2番」も、同じくブルノで1983年に初演している。團とは、日中国交正常化10周年に際し共に訪中。北朝鮮でのフェスティバルにも一緒に参加するなど、とりわけ親交を深めた。昨年5月の「團伊玖磨生誕100年記念コンサート」でも、読響との共演で、自身のために作られた團の「ヴァイオリンとオーケストラのためのファンタジア第1番」を演奏。また、同年鳥取市にオープンした伊福部昭記念館の館長に就任するなど、最晩年まで精力的に活動していた。

 指導者としては、桐朋学園大学、東京音楽大学講師のほか、宮城県中新田バッハホール音楽院院長も務めた。1996年に文化庁芸術祭大賞を受賞。 今年3月には、CD『Fantasia~唯一無二の音色で奏でる珠玉の小品集~』がナミレコードより復刻発売されたばかりだった。

写真提供:ミリオンコンサート協会