これを待っていた! フェドセーエフ&N響コンビ初の「悲愴」

左:ウラディーミル・フェドセーエフ
右:ユリアンナ・アヴデーエワ ©Christine Schneider

 今年93歳を迎える巨匠フェドセーエフが、6月のN響定期に登場する。2023年秋の客演が流れてしまったので、今度こそ実現してほしいと願うばかりだ。彼は、音楽監督を務めるモスクワ放送響(現チャイコフスキー響)とのコンビで半世紀にわたってお馴染みであるほか、世界各地の著名楽団や歌劇場に客演し、N響とも2013年以来再三共演して相性の良さを示している。長老格の指揮者ながら衰えなど微塵もなく、常に自然体で力強さと味わいのある音楽を生み出す奇跡的存在だけに、今回も胸踊らせて本番を待ちたい。

 演目は十八番のロシアもの。最初のリムスキー=コルサコフ《5月の夜》序曲は、民謡を素材とした作品で、ロシアの民俗楽団も率いたフェドセーエフの持ち味がフルに発揮される。次のラフマニノフ「パガニーニの主題による狂詩曲」では、2010年ショパン国際コンクール優勝から15年を経たユリアンナ・アヴデーエワがピアノ独奏を務める。幅広い楽曲において構築感に優れた細やかで情感豊かな音楽を聴かせている名手が、祖国の代表的名曲を同国の巨匠の指揮で弾くとなれば、これまた聴き逃せない。そして後半はチャイコフスキーの「悲愴」交響曲。フェドセーエフは第4楽章をアンダンテ(通常はアダージョ)で演奏するなど独自の解釈をみせているし、超有名な同曲をN響で取り上げるのは意外にも初めてだという。しからば今回は、自信のアプローチに円熟味が加わった新鮮かつ奥深い名演を展開してくれるに違いない。

 この“世界的無形文化財”の至芸に触れるのは、確実に“一生もの”の体験となる。

文:柴田克彦
(ぶらあぼ2025年5月号より)

【指揮者変更】
指揮者ウラディーミル・フェドセーエフ氏は、体調不良により来日を見合わせることとなりました。
代わりましてBプログラムに出演する、フアンホ・メナが指揮を務めます。
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。(5/22主催者発表)

ウラディーミル・フェドセーエフ(指揮) NHK交響楽団
第2039回 定期公演 Aプログラム 
2025.6/7(土)18:00、6/8(日)14:00 NHKホール
問:N響ガイド0570-02-9502
https://www.nhkso.or.jp