ローマ歌劇場の若き音楽監督ミケーレ・マリオッティがふたたび東響の指揮台に

上段左より:ミケーレ・マリオッティ/マキシム・ミロノフ ©Ksenya Ryzhkova/
ダニエラ・バルチェッローナ ©Ph.Studio Amati Bacciardi
下段左より:ハスミック・トロシャン/マルコ・ミミカ ©Gemma Escribano

 マリオッティが来る。彼の十八番でロッシーニの大傑作「スターバト・マーテル」を指揮する。この事実の前に興奮を抑えられない。彼が振るロッシーニは常に特別で、テンポは柔軟に変化し、デュナーミクの扱いが自在で、作曲家の息遣いや鼓動に触れているかのように感じる。

 ロッシーニに限らない。2023年6月、東京交響楽団を指揮したシューベルトの交響曲第8番「グレイト」。大きく抑揚がつけられ、やはり人間の息や鼓動のように脈打ち、とても柔らかいが芯があり、しっかり地を踏みしめていた。音楽監督を務めるローマ歌劇場の今シーズンの開幕演目、ヴェルディ《シモン・ボッカネグラ》も異次元だった。あらゆる感情に想像を超えた深みと凄味が加わり、歌手にも細やかな表現が求められ、奥行きのある内面のドラマが構築された。

 マリオッティはいつも楽曲から予想しきれないほどの情報を引き出し、それまで気づかなかった音楽の潜在力を指し示す。そんな指揮者は稀にしかいない。だからモーツァルトの交響曲第25番もとても楽しみだが、特に十八番のロッシーニは、種々の経験を重ねて生命力を増している。いま、この作曲家がオペラの筆を折った後に書いた「最高傑作の一つ」(マリオッティ談)を聴くことの価値は、言い尽くせないほどだ。

 しかも歌手はマキシム・ミロノフ、ダニエラ・バルチェッローナ、ハスミック・トロシャン、マルコ・ミミカ。世界屈指のロッシーニ歌手ばかりだ。こう書きながら、やはり興奮が抑えられない。

文:香原斗志
(ぶらあぼ2025年5月号より)

ミケーレ・マリオッティ(指揮) 東京交響楽団
川崎定期演奏会 第100回

2025.6/7(土)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
第731回 定期演奏会
6/8(日)14:00 サントリーホール
問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511 
https://tokyosymphony.jp