中国の名手たちによる、変則的な三重奏編成の稀少なオリジナル曲集。ドイツ伝統の書法にこだわったナウマンとフックスによる、それぞれ1863年と1921年の作品だが、いずれもブラームス的な作風を土台に、陰のある和声や旋律美が光る佳品。上海から欧米で確かな研鑽とキャリアを重ねた3人がとにかく上手い。ヨーロピアンで深みある音色と歌、バランスもよく美しい。ヴィオラは底鳴りする美音でチェロの役割も果たし、他2人も十全の演奏で隙がない。ショスタコーヴィチの誠実だがしゃれたセンスもいい。彼らでCDを作った理由も、秘曲の価値も伝わる、うれしい発見の一枚。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2025年5月号より)
【information】
CD『三人行 Quest for Three/ジェン・ウェイミン&リウ・ニアン&リー・ツォン』
ナウマン:ピアノ三重奏曲/フックス:ピアノ三重奏曲/ショスタコーヴィチ/アトフミャン(リウ・ニアン編):5つの小品
ジェン・ウェイミン(ヴァイオリン)
リウ・ニアン(ヴィオラ)
リー・ツォン(ピアノ)
コジマ録音
ALM-9279 ¥3300(税込)