篠﨑史子(ハープ)

ハープの可能性をもっと追求したい

©Satoru Mitsuta
©Satoru Mitsuta

 ハープ界の第一人者・篠﨑史子の『ハープの個展』が13回目を迎える。第1回の開催は1972年。「43年間で13回ですから、それほどでも」と篠﨑は謙遜するが、入念に準備し、時期を見極めて着実に続けてきたシリーズだ。彼女が個人で委嘱してきた新曲35曲(!)のほぼすべてがこの個展で生まれたように、邦人作品を中心にしたシリーズだが、今回はハープを含む室内楽の代表的名曲、ドビュッシー「フルート、ヴィオラとハープのためのソナタ」とラヴェル「序奏とアレグロ」をプログラムに加えた。
「留学先で師事したマルセル・グランジャニー先生、リリー・ラスキーヌ先生、ピエール・ジャメ先生。ドビュッシーやラヴェルとも親交があった先生方の音が素晴らしすぎて、私なんかが弾かなくてもいいんじゃないかと思ったほどです。では、先生方にできなくて自分にできることは何? と考えて始めたのが、邦人作品を中心にしたこの個展でした。でも年齢を重ねて、そろそろ自分なりの演奏をと思えるようになってきたんですね。現在のハープの奏法やその教え方は、私が先生方に習ったのとはかなり違ってきています。私も生徒たちには新しいテクニックや奏法を教えるのですが、自分は私が習ってきたやり方で弾きます(笑)。変化は決して悪いことではないのですが、良いものが失われるのはちょっとさびしい気もしますね」
 個展ではもちろん邦人作品も披露する。委嘱36、37作目となる糀場富美子と新実徳英の新作だ。
「糀場さんとはずいぶん前からお友だちで、自身の中にぶれない信念みたいなものを持った人です。以前にハープのワークショップで、若い作曲家の皆さんに配るハープの解説を一緒に作ったことがありました。その時から、きっとハープ曲を書いてくれるのだろうと勝手に思っていたのです(笑)。新実さんはずっと『トリオを書きたい』とおっしゃっていたんです。すごく重みのある作品を書く人ですが、最近特に円熟されてきたと感じています」
 最近の作曲家の作風に変化を感じているという。
「一時は特殊奏法を多用する作曲家が多かったのですが、今はだんだんロマンティックできれいな方向へと向かっていて、個々の内面性の表現がより重視されてきているのではないでしょうか」
 そして12月には三重フィルの公演で、なんと「第九」を指揮する。実は桐朋学園時代に齋藤秀雄について指揮も学んでいたそうで、当時を知る仲間たちの間ではその力量が知られているという。すでにこの1年間、広上淳一らについて猛勉強中で「いま、ベートーヴェンに恋しています」という彼女。こちらも大注目だ。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年3月号から)

篠﨑史子 ハープの個展 ⅩⅢ 4/8(水)19:00 東京文化会館(小)
問 東京コンサーツ03-3226-9755
http://www.tokyo-concerts.co.jp