

東京音楽大学のTCMオーケストラ・アカデミー(以下「アカデミー」)について、今回は同アカデミーを経てプロ楽団に入団したOBふたりに話をきいた。アカデミーにとっては「プロの音楽家を輩出する」という実績を重ねることが何よりの成果である。両者とも東京音大卒業後にアカデミーの一期生として参加、しかもコロナ禍の時期に重なるというタイミングだった。いわば黎明期にあたり、現在確立されているシステムとは違ったが、あの特殊な時期でもアカデミーに所属していたことで潤沢なレッスンを受けられたなど、その意義も経験できたという。
臼井源太 九州交響楽団フルート奏者(2025年入団)
——アカデミーは一期生になりますね。
本当は自分が卒業した翌年(2021年)に開校予定でしたが、コロナ禍が重なって1年延期になりました。1年間フリーで活動してから2022年にアカデミーに入り、2年目に音楽監督の尾高忠明先生がいらっしゃることになり、とても幸運でした。その時期、相澤政宏先生(当時東響首席フルート奏者)には、いろいろご相談やお願いをさせていただきました。
——東京音大という学校とこのアカデミーは、どういうところでしたか?
フルートの講師の先生方が全員すばらしい方々で、ここで学べて本当に良かったです。オーケストラでの経験が豊富な先生が多く、私はN響首席の甲斐雅之先生についていましたが、レッスンではやはりオケ奏者目線の指摘が多く、いまに繋がりました。学校の特色としては、フルートに限らず講師陣がすごく恵まれています。環境や立地もとても良いです。中目黒キャンパスは大学3年のときにできて、ちょうど2年ずつ池袋と中目黒を行き来しましたが、どちらも遠すぎるというほどでもなく、便利な場所でした。

——九響に入団されるまでは、どういう期間があったのでしょうか。
アカデミーの2年間は、様々なオーケストラにエキストラで行かせていただきました。2年目の頃はアカデミーに所属しながら、外での仕事を中心にしていました。
九響は2023年にエキストラで参加してから、2年ほど何度も呼んでくださいました。2025年に3か月ほどの試用期間を経て、6月に正式入団になりました。出身は神奈川ですが、父方の実家が福岡にありまして、いろんなご縁があって全く未知の場所でもなく、住みやすく居心地がいいです。

——アカデミーの経験はどう繋がっているのでしょうか。
まず、アカデミーが中目黒でできるのは大きいです。他で仕事してから授業に行くということもできる。現場での機会をおろそかにせずに授業も受けられて、いい場所にあることは強みです。
そして、アカデミーは基本、自ら進んで参加するので、オケに対して本気で前向きな人しかいないし、先生たちも常に熱心です。リハーサルでも先生たちが張り付いているので緊張はしましたが(笑)。TCMホールで練習できるのも贅沢ですね。響きがいいホールなので、耳も良くなると思います。
まだアカデミーとして試行錯誤しているところもあるでしょうし、染まりきっていないオケだと思うので、自分のしたいことはたくさんしてほしい。それに、何かあれば先生に甘えればいいと思います。自分も先生にいろいろ相談して、仕事の依頼が来たら調整していただいて現場に行かせてもらったりしました。生徒がいろいろお願いする方が、先生方も大変かもしれないけどきっと嬉しいと思います。チャンスが多くある首都圏だからこそ、どんどん自分でつかんでものにしていくのが、やっぱりプロへの近道になります。
幸多俊 東京都交響楽団打楽器奏者(2024年入団)
——東京音大には同郷の先生がいらっしゃったそうですね。
中目黒キャンパスができたのは2年生のときです。実を言うと大学では辛い時期もありましたが、そこに未曾有のコロナ禍が来て、様々な体験でメンタル面は鍛えられたかもしれません。菅原淳先生と久保先生に4年間教わりましたが、先生方との思い出が一番強く、本当にかわいがっていただいたと思います。

——TCMアカデミーは一期生ですね。
一期生はコロナ禍の時期でもあり、カリキュラムがまだしっかり定まっていない状態でした。逆にその分レッスンを受けられる時間が多かったので、レッスンをたくさん入れて、現場での体験の話もできて、贅沢な時間でした。アカデミーはエキストラの仕事も行きやすく、プロの現場で学んだことやうまくいかなかった経験を持ち帰って、アカデミーの場で研究できる。所属しながら自由に好きなことを学べました。
——アカデミーに入ってから都響に参加されたのですね。
アカデミー1年目の終わり頃に都響のオーディションがあり、幸いにも通って、都響に専念することにしました。実は都響の打楽器は試験期間がとても長くて、一次審査はビデオで、実際の演奏に参加してからも審査が複数あり、さらに試用期間が半年近くあります。それが通って正団員になるまで、2年近くかかりました。2022年から通い始めて、正式入団が2024年8月です。
オーディション期間中にはきつい時期もありましたが、そういうときにアカデミーで先生から助言をいただいたり、励ましてもらったり、ある意味でメンタルケアというか、本当に自分の親のような心の支えになっていました。

——アカデミーの経験は今にどう繋がっているのでしょうか
都響などの現場に行くようになって、以前先生方が言っていたのはこういうことだったのか、と初めて理解できることがたくさんありました。もし卒業してからアカデミーに行かずにフリーでやっていたら、うまくいかないことがもっと多くあったはずです。練習環境もそうですが、先生に相談したり他愛もない会話をしたりといった、何気ない時間も大きかったと実感しています。
実は大学を卒業してアカデミーに入った1年目の最初の5月に、菅原先生と久保先生を鹿児島にお招きして、3人でリサイタルができたんです。先生方も本当に快く引き受けてくださって、最高の思い出になっています。
取材・文:林 昌英
提供:デロイト トーマツ × TCMオーケストラ・アカデミー
未来の音楽家育成プロジェクト
TCMオーケストラ・アカデミー
https://www.tcm-okeaka.jp

林 昌英 Masahide Hayashi
出版社勤務を経て、音楽誌制作と執筆に携わり、現在はフリーライターとして活動。「ぶらあぼ」等の音楽誌、Webメディア、コンサートプログラム等に記事を寄稿。オーケストラと室内楽(主に弦楽四重奏)を中心に執筆・取材を重ねる。40代で桐朋学園大学カレッジ・ディプロマ・コース音楽学専攻に学び、2020年修了、研究テーマはショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲。アマチュア弦楽器奏者として、ショスタコーヴィチの交響曲と弦楽四重奏曲の両全曲演奏を達成。




