
Tsuyoshi Tsutsumi
チェロ/サントリーホール 館長
チェンバーミュージック・ガーデンは、私の生きがいのようなものです
1986年の開館以来、日本のクラシック音楽シーンを大きく変え、かつ牽引してきたサントリーホールが、40周年を迎える。当時のサントリー株式会社社長・佐治敬三と共に海外の名門ホールを回り、開館にも関わってきたのが、2007年から同ホール館長を務める堤剛である。
「サントリーホールは、欧米の伝統あるホールと比べて比較的短い間に、多くの皆様が、世界のリーディングホールの一つと認めてくださっています。本当に嬉しく、ありがたいことです。開館前の計画の段階で、どのようなホールにするべきか、各地の名門ホールで多くの方々のお話やご助言を佐治らと一緒に伺い、ベルリンではカラヤン先生から『ヴィンヤード形式』を熱心に勧められました。40周年には感慨深いものがあります」
堤館長が提唱して始まった、室内楽の祭典「チェンバーミュージック・ガーデン(CMG)」は名物企画となり、今年16年目を迎える。
「室内楽には音楽のエッセンスが最も詰まっています。当館の『室内楽アカデミー』で、コーチングしてグループを育てることに加えて、演奏の機会も作ろうということでCMGが生まれました。『室内楽フェスティバル』というのもつまらないので、名前に『ガーデン』と入れて、花畑にいろんな色の花が咲くように、室内楽には多彩な面白さがあることを表しました。当館のブルーローズ(小ホール)なら、昔のヨーロッパのサロンのような雰囲気もあるし、ステージを囲む形にすることで身近に感じられます。アカデミーから巣立った音楽家たちを応援する雰囲気もできました。
それから、CMGの柱になる企画として、『堤剛プロデュース』と『ベートーヴェン・サイクル』ができました。前者の方は、採算が合わないくらいに(笑)ユニークなプログラムを毎年やって、お客様に喜んでいただいています。後者はベートーヴェンの16曲の弦楽四重奏曲という凄い曲集を、毎年違ったグループが全曲演奏することで、実にいろいろな解釈や弾き方があるとわかり、室内楽の深さがこの上なく伝わると思います。常連になっているお客様もいらっしゃいますし、いまや世界でも有名な企画になりました」
70年近くにわたり日本を代表するチェリストとして活躍する堤自身も、演奏者としてステージに立つことで、アカデミーとCMGの意義を体感しているという。
「私自身、若い方たちとも一緒に演奏しますが、そこでは年齢や経験は関係ない。もちろん長く生きてきて、それなりの経験はあるけど、だからといって上下関係になるということはありません。アカデミー生のことを私たちは『フェロー』と呼んでいます。年齢や立場に関係なく、音楽の『仲間』ということです。池に石を投げて輪が広がっていくような、そういう広がり方がいいなと思うし、その中に身を置けるのはとても嬉しいことです。若く素晴らしい演奏家と一緒になって、未踏の世界に踏み込み、独創的なものを作り出せることもある。すごくいい刺激になりますし、ある意味で私の生きがいみたいなものになっています」
「フェロー」という言葉に込められた音楽の対等な「仲間」という思いは、室内楽の理念にもつながる。
「室内楽でスコアを見てしっかり勉強すると、音楽の仕組みがとてもよくわかります。室内楽は『人間の営み』でもあり、対話や会話が必要だし、たまには意見がぶつかることもあるし、ある意味で民主主義的でもあります。また、講師陣が素晴らしいコーチングをしてくださって、若い方たちはどんどん伸びていくし、音楽学校を出てプロになる時期の助けになっていることは大きな成果と感じています」
サントリーホール40周年は、記念すべき節目であり、次のステップへの通過点でもある。
「欧米の名門ホールのように、その土地の人たちに自分たちの誇りと思われるような存在になっていきたいです。ここで演奏したいというアーティストも増えて、世界の音楽界の中でのリーダーシップを発揮していくべき立場にもなりました。今後は50周年に向けて何をやっていくのか、その期待にしっかり応えていきたいと思います」
取材・文:林昌英 写真:阿部章仁
(ぶらあぼ2026年5月号より)
サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン 2026
2026.6/5(金)〜6/20(土) サントリーホール ブルーローズ(小)
【堤剛 出演公演】
CMGオープニング 堤 剛プロデュース 2026 6/5(金)19:00
出演/伊藤悠貴、笹沼樹、堤剛、横坂源(以上チェロ)、須関裕子(ピアノ)
プレシャス 1pm Vol.4 フランスのチェロ・ソナタ 6/19(金)13:00 完売
出演/小山実稚恵(ピアノ)、堤剛(チェロ)
CMGフィナーレ 2026 6/20(土)19:00
出演/サントリーホール室内楽アカデミー【原田幸一郎、池田菊衛(以上ヴァイオリン)、磯村和英(ヴィオラ)、堤剛、毛利伯郎(以上チェロ)、練木繁夫(ピアノ)】、幣隆太朗(コントラバス)、葵トリオ(ピアノ三重奏)、クロンベルク・アカデミー 他
問:サントリーホールチケットセンター0570-55-0017
https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/feature/chamber2026/
※フェスティバルの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。

林 昌英 Masahide Hayashi
出版社勤務を経て、音楽誌制作と執筆に携わり、現在はフリーライターとして活動。「ぶらあぼ」等の音楽誌、Webメディア、コンサートプログラム等に記事を寄稿。オーケストラと室内楽(主に弦楽四重奏)を中心に執筆・取材を重ねる。40代で桐朋学園大学カレッジ・ディプロマ・コース音楽学専攻に学び、2020年修了、研究テーマはショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲。アマチュア弦楽器奏者として、ショスタコーヴィチの交響曲と弦楽四重奏曲の両全曲演奏を達成。

