
Sir Donald Runnicles
指揮
スコットランド出身の名匠、サー・ドナルド・ラニクルズが、この6月に首席指揮者を務めるドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団と来日公演を行う。定期的に日本を訪れるドレスデン・フィルに対し、ラニクルズはなんと今回が初来日だという。
ドイツとアメリカを結んだオンラインインタビューでは、首席指揮者に就任して半年近くが経つこの楽団との共同作業の話から始まった。
「指揮者とオーケストラの間には、言葉を超えた信頼関係が不可欠です。つい最近はR.シュトラウスの《エレクトラ》を演奏会形式で上演しましたが、個人的な人間関係のように、私たちの間に信頼が育まれているのを感じます。
ドレスデン・フィルには、この街の長い歴史が育んだ、ドイツ的な響きが今も息づいています。彼らの強みは各セクションの質の高さにあると言えるでしょう。豊潤で美しい弦楽器の音色、世界中のどの一流楽団でもソロを任せられる水準の木管楽器、そして規律正しく力強い金管楽器。これらが一体となった時のパワーは凄まじいものがあります」
そんな彼らが携えてくるメインプログラムは、マーラーの交響曲第1番「巨人」とブラームスの交響曲第4番。どちらも1880年代半ばに書かれながら、曲想がまるで異なる2つの交響曲について、ラニクルズはこう語る。
「マーラーの『巨人』は、私にとって奥深く、すべてを包み込む『旅』そのものです。冒頭から自然の息吹、彼方の地平線、そしてアルプスのそびえ立つ峰々といった、五感に訴えかけるような壮大な光景が呼び起こされます。交響曲第2番『復活』に満ちている嵐や人間の苦闘は、この第1番では終楽章に現れるのみですが、春のような理想主義と人間性への深い愛情に溢れています。
マーラーの音楽が物語的であるのに対し、ブラームスは純粋に音だけで表現しました。この第4交響曲は、彼が辿り着いた最後の到達点です。バッハやブクステフーデといった過去の巨匠たちへの深い敬意が、終楽章のパッサカリアに刻まれ、新鮮なワインを古い瓶に注ぐような、伝統と革新の融合がここにあります。人のため息を思わせる第1楽章の冒頭には、郷愁や悲しみが入り混じっています。いわば『青年の理想』と『巨匠の諦念』というコントラストが際立つプログラムを、ドレスデン・フィルという最高の楽器で表現できることが今から楽しみです」
ラニクルズが語るドイツ語の美しいこと、語彙が豊富なこと。思わず聴き惚れてしまう。ドイツ音楽を「ことば」で理解できるマエストロなのだ。ベルリン・ドイツ・オペラの音楽総監督を16年務めてきた経験と実力は生半可なものではない。
さらに、ラニクルズのルーツである英国音楽からヴォーン・ウィリアムズの「トマス・タリスの主題による幻想曲」が演奏されるのも嬉しい。これは横浜公演のみだが、ホールに配置される複数の弦楽合奏から空間にどう響き合う音楽が生まれるだろうか。
プログラムの前半を彩るのが、ヴァイオリンの樫本大進、ピアノの亀井聖矢という2人の人気ソリストとの共演。現在ドイツ・カールスルーエに留学中の亀井は、すでにラニクルズの前で試奏しているそうで、「卓越した若手ピアニスト」とラニクルズは期待を寄せる。日本ツアーの前に本拠地の文化宮殿での共演が予定されており、みずみずしい音が鳴り響くはずだ。
インタビューの最後に、ラニクルズが少々意外な趣味の話をしてくれた。
「私は大の乗り物好きで、特に路面電車と飛行機には目がありません。ベルリンとアメリカの自宅には本格的なフライトシミュレーターがあり、今日も後ほど『空を飛ぶ』予定です(笑)。実は、指揮台に立つのとパイロットとして操縦桿を握るのは、驚くほど似ています。スコア(計器)を読み、オーケストラ(エンジン)の響きを聴き、全体のバランスを俯瞰しながら、刻一刻と変わる音楽の流れに合わせて、微細な調整を行っていくのです……」
ラニクルズとドレスデン・フィルの初来日公演は、果たしてどんな着地を見せるだろうか。彼らとの壮大な音楽の旅をぜひご一緒いただきたい。
取材・文:中村真人
(ぶらあぼ2026年5月号より)
サー・ドナルド・ラニクルズ指揮 ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団
出演/亀井聖矢(ピアノ)★、樫本大進(ヴァイオリン)♦
2026.6/22(月)19:00 東京芸術劇場 コンサートホール
曲目/ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第5番「皇帝」変ホ長調 op.73★
マーラー:交響曲第1番「巨人」 ニ長調 GMW11
6/23(火)19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
曲目/ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第5番「皇帝」変ホ長調 op.73★
ブラームス:交響曲第4番 ホ長調 op.98
6/25(木)19:00 サントリーホール
曲目/ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番 op.26♦
マーラー:交響曲第1番「巨人」 ニ長調 GMW11
6/28(日)14:00 横浜みなとみらいホール
曲目/ヴォーン・ウィリアムズ:トマス・タリスの主題による幻想曲
ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番 op.26♦
ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 op.98
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212
https://www.japanarts.co.jp
他公演
2026.6/19(金) 福岡シンフォニーホール(092-725-9112)★
6/20(土) 大阪/ザ・シンフォニーホール(ABCチケットインフォメーション06-6453-6000)★
6/21(日) 愛知県芸術劇場 コンサートホール(CBCテレビ事業部052-241-8118)★
6/26(金) 文京シビックホール(03‐5803-1111)★
6/27(土) 所沢市民文化センター ミューズ アークホール(04-2998-7777)★
※公演によりプログラムは異なります。詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。

