初のリサイタルから25年――松田理奈(ヴァイオリン)の“いま”を聴く

左:松田理奈 ©Akira Muto
右:清水和音 ©Mana Miki

 モーツァルトは親しげにみえる。誰にとっても特別だけれど、しかし誰とでも仲良くしてくれるひとではない。

 モーツァルトが心から微笑むことはめずらしい。でも、松田理奈のヴァイオリンはいつだってそのしあわせを連れてくる。清水和音のピアノもそうだ。

 素材のよさが際立ち、余計な思いが混ざらない。いっしょに無心になるからだろうが、もちろん心がここに無いのではなく、モーツァルトの気持ちをそのまま生きているからだ。

 しかも、松田理奈と清水和音がおなじステージに立つと、その心地よい感興が清らかにひらかれてくる。モーツァルトを大好きであることが、それを傷つけたり汚したり縛ったりすることにならない。なんとしあわせなことだろう。

 ちょっとほめすぎではないか、と思われる向きもあるかもしれないが、昨年おなじ場所でふたりが弾くト長調ソナタ K.379を聴いたから、そう言うことになんのためらいもない。2019年のヘ長調ソナタ K.377の特別な思い出もある。「尊敬する清水和音さんと弾くのは、私の人生のご褒美みたいなもの」と語る松田理奈の言葉のとおり。それは優美に満ちたりていたのだ。

 初めてのリサイタルから25年を祝う年、こんどは変ロ長調ソナタ K.454から始める。無伴奏では昨年のニ短調に続き、バッハのホ長調パルティータに臨む。結びはフランクのイ長調ソナタ。すべて長調の名作で、バロック、古典派、ロマン派から近代まで旅する豊かな時間。親密なデュオの信頼を通じ、松田理奈の天性がやわらかくひらかれてくる一会となるだろう。
文:青澤隆明
(ぶらあぼ2024年10月号より)

松田理奈 ヴァイオリン・リサイタル
2024.11/4(月・休)14:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:サンライズプロモーション東京0570-00-3337
https://www.promax.co.jp