MINAMI(ヴァイオリン)

エリザベート入賞を経てさらなる飛躍を

©Yoshihiro Yoshida

 「現代は、いかに派手で、いかにばえて、いかにバズるかみたいな演奏が増えてきている感じがします。自分はそれはしたくない。派手さに頼るのでなく、音楽の本質を見たいんです。『演奏家としてやっていきたい』というのは『作曲家の意図を私の言葉で伝えたい』とイコールだと思っているので、正統的な音楽家になりたい。わりとインサイドな部分にフォーカスして聴いていただけたら、私が思うところが伝わるんじゃないかなと思っています」

 今どきの若者らしい口調の中にも、音楽家としての信念がきちんと芯を食っている。今年5〜6月に開催されたエリザベート王妃国際音楽コンクールで第6位に入賞したヴァイオリンのMINAMIが入賞記念リサイタルを開く。

 「正直に言えば6位という結果には悔しさもあります。でも予選から本選まで全ラウンドを通して、思いっきり、自分の思うように弾けた。大きな舞台で、満足できる演奏ができたのはよかったです」

 リサイタルは前半がドヴォルザーク、ヒンデミット、コルンゴルトとヨーロッパからアメリカに渡った作曲家たち、後半はベルリンやウィーンで学んだシベリウスと、ベートーヴェン。

 「ボストンでの留学が5月に終わり、10月からクロンベルクに移るので、そんな自分の背景を重ねました。

 とくにベートーヴェンの『クロイツェル・ソナタ』は“入賞記念”を意識しています。エリザベートのセミファイナルは2つのリサイタル・プログラムを用意しておいて、本番前日にどちらかが指定されるルール。私はシューマンのソナタを弾いたのですが、演奏しなかったほうのプログラムが『クロイツェル』だったんです。じつは2年前にインディアナポリスのコンクールでも弾いていて、トータルに見ればうまく弾けたと思うのですけど、自分の考えている『クロイツェル』ではなかった。そのリベンジの気持ちも込めた選曲でした。

 抽象的な言い方ですが、『クロイツェル』を派手に弾くのはめちゃめちゃ簡単だと思うんですよ。でもそんな曲なのかなって。インディアナポリスの時も、中身のある“大人”な演奏を目指していたのに、やっぱりコンクールだ! 弾かなきゃ!と、頭にかーっと血がのぼって、どうだ!系の演奏になってしまった。今回はそれをしないように攻めたいと思います」

 昨年、師のミリアム・フリードに勧められ、活動名を「吉田南」から「MINAMI」に変更した。世界で活躍するため。きっとそうなる。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2024年9月号より)

MINAMI ヴァイオリン・リサイタル ~エリザベート王妃国際音楽コンクール・ヴァイオリン2024 入賞記念コンサート~
2024.9/19(木)19:00 王子ホール 
問:アスペン03-5467-0081 
https://www.aspen.jp