紫園 香(フルート)

フランスの黄金時代から現代まで、フルートのマスターピースを集めて

©Mikako Ishiguro

 2022年にデビュー40周年を迎えたフルートの紫園香。名手の藤井一興(ピアノ)とともに、バッハから近代までさまざまなレパートリーを披露してきた紫園の9月14日のリサイタルは、「西の風 東の精神(こころ)」と題し、フランス近代からアメリカ、そして藤井への委嘱新作まで、意欲的な内容だ。

 「藤井さんとは、私のデビューリサイタル以来のお付き合いです。リハーサルでは、リズムはもとより響きや音の緊張感、フレーズで合わせていく感じなので、とても刺激的です。藤井さんへの委嘱新作は3作目になります。今回の『今賜るアッシジの聖フランチェスコの教え』はより瞑想的な雰囲気の作品で、フルートの旋律がフランチェスコの教えを語っている部分もあります」

 ドビュッシーからニーノ・ロータまでプログラムは多岐にわたる。

 「ドビュッシーの『ビリティス』、そしてゴーベールの『古代のメダル』はともにアルカイックな魅力のある作品で、後者は同期で尊敬するヴァイオリン奏者・沼田園子さんも加わったトリオの編成です。ムチンスキーのフルートとピアノのためのソナタ(1961)は全体にメタリックな印象で、2つの楽器の対話がエネルギッシュに展開していくのが特徴。映画音楽で有名なロータの『トリオ』(1958)は書法も優れていて、華やかに躍動するリズムの面白さを聴いていただきたいですね」

 紫園のフルートの恩師で作曲家でもある川崎優の『涙』も演奏される。

 「川崎先生には、音楽家としてどうあるべきかを教えていただきました。先生は被爆者でいらっしゃるのですが、この『涙』は私がかつて委嘱した作品で、先生のご体験が投影されているかもしれません。ド♯の音を何度もニュアンスを変化させながら吹く、能の世界を思わせる作品です」

 演奏活動に加え、能登など被災地でのボランティア活動、そして日本クリスチャン音楽大学・同大学院教授として教育活動にも従事している。

 「38年前に信仰に目覚めクリスチャンになりました。現在までにチャペルコンサートも世界2500ヵ所で行っています。またケニアの学校でスラムの子どもたちにフルートを教える活動にも長年たずさわっています。通常の演奏活動だけではなく、コンサート会場に来ることのできない方々にも音楽を届けたいと考えています」

 ムラマツ・フルート・レッスンセンターで講師も務め、同社の24K-SRのフルートを愛用。「重たいのですが、とても柔らかい響きがします」。銀座の王子ホールでのリサイタルでは愛器(Pneuma号)を手に、深みのある演奏を聴かせてくれることだろう。
取材・文:伊藤制子
(ぶらあぼ2024年9月号より)

紫園 香 フルートリサイタル ~西の風 東の精神(こころ)~
2024.9/14(土)14:00 王子ホール
問:ミリオンコンサート協会03-3501-5638 
http://millionconcert.co.jp