【CD】ラファエル・フォン・ケーベル:9つの歌 他/山下牧子&佐野隆哉

 夏目漱石のエッセイでも知られるラファエル・フォン・ケーベルは東京帝国大学で哲学を教える傍ら、藝大の前身・東京音楽学校で音楽も教えていた。このモスクワ音楽院卒の哲学者は、日本の近代学芸の恩人なのである。その遺品にあった9曲のドイツ・リートは弟子筋に引き継がれ出版されたが、どれもロマン派の基本を踏まえた趣のある佳作。山下牧子はこれらをメゾ用に移調した上で、連作と捉えてドラマティックな起伏をもって描いている。またケーベルに学んだ瀧廉太郎の歌曲も収録しており、ドイツ系教養人の教えの受容と変容からは、西洋に胸を開き始めた時代の気分が匂いたってくる。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2024年7月号より)

【information】
CD『ラファエル・フォン・ケーベル:9つの歌 他/山下牧子&佐野隆哉』

ケーベル:9つの歌/瀧廉太郎:荒城の月、秋の月(山田耕筰編)、花

山下牧子(メゾソプラノ)
佐野隆哉(ピアノ)

妙音舎
MYCL-00047 ¥3300(税込)