ショパン研究所が2025年ショパン・コンクールの概要を都内で発表

課題曲の規定を刷新、ファイナルでソロ導入

 ポーランドの首都ワルシャワで5年に一度開催されているフリデリク・ショパン国際ピアノコンクール。6月19日、都内のポーランド共和国大使館で記者会見が行われ、コンクールを主催する国立フリデリク・ショパン研究所(NIFC)のアルトゥル・シュクレネル所長、コンクールのプロデューサーを務めるヨアンナ・ボクシュチャニンら関係者のほか、前回第4位入賞の小林愛実が登壇。2025年に行われる第19回の概要が発表された。

ショパンとピアノのシルエットが印象的な第19回のポスターデザインも発表された

 同コンクールは1927年に創設され、数ある国際コンクールの中でもピアニストにとって最高峰に位置付けられる登竜門。世界的なパンデミックの影響で1年遅れの開催となった2021年の第18回大会では、カナダのブルース・リウが優勝。上位入賞を果たした反田恭平、小林愛実ら日本勢が活躍したことも記憶に新しい。
 第19回のスケジュールは以下のとおり。

第19回フリデリク・ショパン国際ピアノコンクール(2025年)
[会場:ワルシャワ国立フィルハーモニー]
予備予選 4/23~5/4

オープニング 10/2
1次予選 10/3~10/7
2次予選 10/9~10/12
3次予選 10/14~10/16
ファイナル 10/18~10/20
入賞者コンサート 10/21~10/23

 参加申込の提出期限は今年の12月15日。書類と映像での予備審査を通過した約160名のコンテスタントが翌年4月からワルシャワでの予備予選に臨み、本大会へ進む約80名に絞られる。

 課題曲には、今回変更点がみられる。

◎1次予選
練習曲、ノクターン、ワルツ、バラードから任意の作品、
および舟歌 嬰ヘ長調 op.60または幻想曲 ヘ短調 op.49
◎2次予選
ポロネーズ、前奏曲集 op.28、アンダンテ・スピアナートと大ポロネーズ 変ホ長調 op.22から任意の作品、
およびピアノ独奏曲から任意の1曲
◎3次予選
ソナタ 変ロ短調 op.35またはソナタ ロ短調 op.58、
いずれかのマズルカ作品集、およびピアノ独奏曲から任意の1曲
◎ファイナル
幻想ポロネーズ op.61および
ピアノ協奏曲 ホ短調 op.11またはピアノ協奏曲 ヘ短調 op.21

 まずはワルツ。前回大会は2次予選で演奏されていたが、次回は1次予選の課題となる。シュクレネルは「ショパンのワルツをどう弾くかはピアニストにとって大きな挑戦です。それぞれのコンテスタントたちがワルツにどう向き合うか、早い段階で聴きたいと思いました。2次予選ではワルツの代わりに任意の1曲を弾いていただきます」と変更の背景を説明。

左:ヨアンナ・ボクシュチャニン(コンクール プロデューサー)
右:アルトゥル・シュクレネル(NIFC所長)

 そして最も大きな変更点は、ファイナルにソロ演奏が導入されたこと。2曲の協奏曲のいずれかに加え、幻想ポロネーズが加わった。そこには2つの意図があるという。

「オーケストラとの共演が初めてのために緊張し、音楽に入り込めなかったコンテスタントを見てきましたので、独奏曲を弾くことで音楽に集中するための時間を与えたいというのがひとつ。この作品は即興性が高いので、それによって音楽に入り込み、気持ちを高められるのではないかと考えました。
 また、ピアノ協奏曲はショパンの若い時の作品ですが、晩年の成熟した作品である幻想ポロネーズを弾いていただくことで、ピアニストの持つ資質の幅広さを聴きたいと考えています」

 1位から4位までの入賞者には賞金のほかワールドツアーでの演奏機会が提供される。優勝者の賞金は6万ユーロ。日本では同年12月、優勝者による東京でのリサイタルとオーケストラとの共演が、26年1月には入賞者によるワルシャワ・フィルとのガラコンサートが予定されている。
 なお、審査員の体制は今年9月末にワルシャワでの会見の席で発表予定で、これまで通り歴代の優勝者・入賞者が中心になるという。ワルシャワでの鑑賞チケットの発売開始は翌月10月1日。前回大会に引き続き、公式サイト、スマホアプリ、公式YouTubeチャンネルなどで配信を楽しむこともできる。

小林愛実はアレクサンデル・ラスコフスキ広報担当とのトークショーに参加

 概要発表につづき、小林愛実によるトークショーが行われた。ショパン・コンクールに二度挑戦している小林。1回目は3、4ヵ月の準備期間だったが、前回大会には1年半ほどを費やしたという。
「コンクールが始まる数ヵ月前から緊張していました。開催中はホテルの朝食が喉を通らないほどで、緊張をやわらげるため、作曲家の生まれた地で演奏できる喜びを味わおうと言い聞かせていました。
 コンクールの準備をしている間はショパンばかりを弾いて頭がおかしくなりそうでした。だけど、やっぱりショパンの作品は美しく力強い。私の人生のターニングポイントには、いつも彼の作品があります。とても大切な作曲家であることはこれからも変わりません。次回大会に挑戦する方には、ぜひ自分の思うショパン像を作り上げてもらいたいです」

 最後に小林がノクターン第20番と幻想即興曲を演奏し、記者会見は幕を閉じた。

シュクレネル所長からプレゼントを渡され笑顔を見せる小林愛実
(中央:ウルシュラ・オスミツカ ポーランド広報文化センター所長)

 1927年に始まったコンクールは、まもなく創設100周年を迎える。プロデューサーのボクシュチャニンによれば、2025年の第19回、2028年の第3回ショパン国際ピリオド楽器コンクール、2030年の第20回の3つを100周年記念事業と位置づけ、書籍や録音物の出版なども予定されているという。また、第1回の開幕日からちょうど100年にあたる2027年1月23日には、国立フィルハーモニーで記念の祝賀行事を予定しているほか、「ショパン・ワールド・ガラ」を世界各地で開催する。第20回コンクールについては、予備予選を世界の各都市で実施することも視野に入れているといい、常にピアニストや音楽ファンを惹きつけ、一歩先を歩む世界最高のピアノコンクールの、将来を見据えたしたたかな戦略が感じられる記者会見となった。

取材・文・写真:編集部

Narodowy Instytut Fryderyka Chopina
https://konkursy.nifc.pl/en/miedzynarodowy/o-konkursie/77