イタリアの声楽や弦楽器と聞けば、甘美な音色でたっぷり歌うイメージだ。では鍵盤楽器なら? 当盤収録のバロック期の作品を聴けばよくわかる。17世紀のルッツァスキから18世紀中葉のパラディエスやD.スカルラッティまで、とにかく情念が濃い。半音階、不協和音、思いがけぬ転調が駆使され、喜怒哀楽が極点まで表現される。中途半端なスタンスを弾き手に許さない。だが、20年以上イタリア音楽に魅せられてきた平井み帆なら心配無用。没入と俯瞰のバランスが絶妙で、文句なしの「旅」の案内人だ。ポリエッティ「ハンガリーの反乱によるトッカティーナ」の想像力の爆発には息を呑むばかり。
文:矢澤孝樹
(ぶらあぼ2024年5月号より)
【information】
CD『チェンバロの旅 イタリア・バロック音楽150年の軌跡/平井み帆』
ルッツァスキ:第4旋法のトッカータ/フレスコバルディ:トッカータ第2番/ポリエッティ:ハンガリーの反乱によるトッカティーナ(抜粋)/パラディエス:ソナタ第9番 イ短調/スカルラッティ:ソナタ K.69、同K.184 他
平井み帆(チェンバロ)
コジマ録音
ALCD-1221 ¥3300(税込)