オリビア・ゴーラ(メゾソプラノ)& 村上敏明(テノール)〜メキシコの歌姫と日本のトップ・テノールによる豪華共演!

歌にはすべてを超える力がある――日墨の名歌手の演奏を聴いて考える

左:オリビア・ゴーラ 右:村上敏明

 傑出したオペラ歌手を数多く輩出しているメキシコ。テノールだけでもラモン・ヴァルガス、ローランド・ビリャソン、近年ならハビエル・カマレナ。三大テノールのプラシド・ドミンゴも、生まれこそスペインだがメキシコ育ちだ。

 世界的ヴァイオリニストの黒沼ユリ子は、そんなメキシコと日本をつなぐ活動を長く続けている。十代でチェコに留学したのちメキシコに移住し、現地で30年以上も音楽教育に尽くして2014年に帰国。以来、千葉県御宿町に定住し、日本とメキシコの友好を謳った「黒沼ユリ子のヴァイオリンの家・日本メキシコ友好の家」を開いている。

 もともと黒沼と御宿に縁があったわけではない。両者を結んだのは、17世紀初頭にメキシコに向かうスペイン船が座礁したとき、御宿の人たちが総出で300人以上の命を救ったという史実だった。日墨(日本とメキシコ)友好の原点の地に、黒沼はこだわったのだ。
 そんな御宿で3月31日、日墨を歌でつなぐコンサートが開催される。初来日となるオリビア・ゴーラと村上敏明が歌い、ジェームス・デムスターがピアノを弾く。それがどんなに特別なことか――

 ゴーラは、メキシコとニューヨークの音楽学校で学んだのち、2000年に国際コンクールで優勝して国際的キャリアを歩みはじめ、メトロポリタン・オペラなど名立たる歌劇場に出演。ドミンゴやヴァルガスらとも共演を重ね、そうした活動が評価されての受賞も多い。当初はソプラノだったが、現在はメゾソプラノとして活躍し、恵まれた美声を叙情的に、時に劇的に響かせる。

 そんな歌姫と共演し、《カルメン》や《トスカ》の二重唱の相手も務めるのが、イタリア・オペラを中心に60以上のレパートリーを誇り、実力でも人気でも日本を代表するテノール、村上である。

ジェームス・デムスター

 そしてピアノのデムスター。アメリカ生まれだが三十数年前からメキシコに住み、ドミンゴやヴァルガス、ビリャソンとも共演を重ねてきた。名立たる声楽指導者でもあり、いまをときめく大スターで、今年の英国ロイヤル・オペラ日本公演で《リゴレット》に出演するカマレナも、デムスターの愛弟子だ。

 黒沼は、歌には言葉の壁はもちろん、国籍や年齢、性別も超えて人を感動させる力があると強調する。むろん、それは黒沼が長年、メキシコと日本をつなぎながら実感してきたこと。このコンサートはその経験に裏打ちされているから価値がある。なぜなら、音楽の力を知り尽くした黒沼がいると、3人の力ある演奏が化学反応を促され、いっそう輝くからである。

文:香原斗志

2024.3/31(日)14:00 千葉/ラビドールホール

出演
オリビア・ゴーラ(メゾソプラノ)
村上敏明(テノール)
ジェームス・デムスター(ピアノ)

曲目
ビゼー:《カルメン》より〈ハバネラ〉〈花の歌〉〈いや、あんたはあたしを愛していない〉
プッチーニ:《トスカ》より〈世界中のどんな瞳も〜でも、彼女の瞳を黒く塗って〉
マスネ:《ウェルテル》より〈さぁ、涙を流させて〉〈春風よ、なぜ私を目覚めさせるのか〉
サン=サーンス:《サムソンとデリラ》より〈あなたの声に私の心は開く〉
プッチーニ:《トゥーランドット》より〈誰も寝てはならぬ〉
ベラスケス:べサメ・ムーチョ
ララ:ただ一度だけ、グラナダ 


問:黒沼ユリ子のヴァイオリンの家 0470-62-5565
https://casa-del-violin.com