周辺の作曲家たちと同時代の銘器から浮かび上がる新たなるショパン像
気鋭のアーティストが、多彩な選曲構成で音楽の魅力と可能性を聴かせるプロジェクト「紀尾井レジデント・シリーズ」。全3回の中で、アーティストが腕によりをかけて披露するプログラムは、「ここでしか聴けない」掘り出し物のような名作・名演が多く、目下進行中の川口成彦公演も然り。
川口は第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクール第2位入賞を機に広く知られるようになったが、熱心なファンの間ではそれ以前から引き出しの多い音楽家として知られる存在であった。彼のステージでは、初めて知る作曲家や作品であっても、楽曲の歴史的背景や形式・様式を優しい説得力を持って表現してくれる。そのため、過去2回ともレアな作品や意外な選曲でも、納得感とともに心が豊かになる公演だった。そのシリーズがいよいよ最終回を迎える。
今回は「ショパンと彼の仲間たち/ショパンへのグランド・オマージュ」のタイトルで、ショパン作品はもちろん、同時代のシューマン夫妻、リスト、メンデルスゾーン、師のエルスネルや同門の友人だったフォンタナ、ショパンの弟子で助手でもあったミクリ等々、20名ほどの作曲家の作品で構成されている。その中には、ショパン作品に登場するパガニーニ(「パガニーニの思い出」)や、夜想曲の創始者フィールドの「夜想曲第2番」なども含まれており、使用楽器はショパンが愛したプレイエル、しかもショパン時代の響きが堪能できる1843年製(タカギクラヴィア所蔵)なので、ショパンの新たな側面を垣間見ることもできそうだ。趣向を凝らした見事なプログラムと名器の響き。この最終回は聴き逃せない。
文:上田弘子
(ぶらあぼ2024年2月号より)
2024.4/26(金)19:00 紀尾井ホール
問:紀尾井ホールウェブチケット webticket@kioi-hall.or.jp
https://kioihall.jp