錦織 健(テノール)

美しいメロディとトルコ風のサウンドをご堪能ください!

 オペラ界の若手スターとして頭角を現し、TV-CMでも「違いの分かる男」として話題を呼んだテノール、錦織健。それから約20年たった今も、その柔軟で真摯な心根は全く変わっていないようだ。舞台ではチャレンジ精神の塊と化すが、日常の体調管理には細心の注意を払い、日々の研鑽も怠らない。この2月から3月にかけて自らモーツァルトの名作《後宮からの逃走》を上演、本人も青年貴族ベルモンテ役で舞台に立つという。輝く声音の裏側には、「考え抜く男」ならではの積み重ねが潜んでいた。
「《後宮》は知名度の高いオペラですが、日本では滅多に上演されないのでこの機にぜひご覧いただければと思います。観ていただければすぐわかるストーリーですし、歌はドイツ語でもセリフのやりとりは日本語で行いますので予習しなくても大丈夫! むしろ予習禁止で(笑)、生の舞台を気軽に楽しんで下さればと思います。演出の十川稔さんの許可があれば、ちょこっとオペレッタ的な笑いも入れたいですし、全国を巡業しますから、アドリブで地元ネタを披露しようかなと。先日出演した静岡のラジオ番組では、そのことも約束してきました!」
 《後宮》の舞台は18世紀のトルコ。海賊に誘拐され太守の後宮に入ったコンスタンツェを救うため、婚約者のベルモンテがはるばるスペインから乗り込んでくるという筋立てに、後宮の番人オスミンがコミカルに絡む。しかし、最後には恩讐を乗り越えた太守が若者たちを赦し、解放してハッピーエンドに。
「ベルモンテは本当に無鉄砲な奴ですよ! 武器もなしに単身で救出に向かいますからね。むしろ、従者のペドリロの方が用意周到です。この役は若手の高柳圭さんにお願いしました。演技力が素晴らしく、いろんな仕草をとってどんどんやってくれますし、声質もリリックなので僕とも合うんです。コンスタンツェ役の佐藤美枝子さんには、美しいお人形のような立ち姿で難しいアリアをガンガン歌っていただきますし、チャーミングさと喜劇のやりとりは侍女ブロンデ役の市原愛さんにお任せです! オスミン役の志村文彦さんは、うちの一座の看板役者。彼は僕の後輩なので『シムちゃん』と呼んで頼りにしています。彼はふくよかな体型で(笑)、クサい演技もお手の物ですから、我々との丁々発止のやりとりにご期待下さい」
 ところで、このオペラで興味深いのは、寛大な心を示す太守がセリフのみの役であること。今回はベテランのバス・バリトン、池田直樹が登場。
「オペラの場合、台詞役の人も歌のタイミングを把握された方がうまくいきますので、今回は先輩にお願いしました。僕が駆け出しのころ、稽古場で見かける池田さんは、いつも鏡の前で動きを熱心に研究されていました。演技魂の熱い方ですね。怒れる太守から最後に聖人君子に変貌するくだりをどこまで格好よく演っていただけるか、とても楽しみです」
 最後に《後宮》の音楽の魅力について。
「モーツァルトのメロディは本当に美しくて、名アリアがたくさんあります。情緒豊かなシーンでは木管が活躍しますし、軍楽的なトルコ風の響きでは打楽器が大熱演。こんなにトライアングルが鳴るオペラもほかにないでしょう。要は『筋を知らなくても、サウンドの効果だけで十分に楽しめる』キャッチーな音楽です。指揮の現田茂夫さんは歌手仲間から最も信頼されるマエストロ。いつも暗譜で振られますし、『生の舞台で起こる化学反応を毎回楽しもうよ』とおっしゃるだけに、歌と合わせるテクニックも凄いです。オーケストラと歌が細かく絡むパッセージでも、公演ごとに新しいチャレンジに積極的に取り組んで下さいます。こうした良い音楽仲間と、元気に全国を回ります。ご来場をお待ちしています!」
取材・文:岸 純信(オペラ研究家) 写真:武藤 章
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年2月号から)

錦織 健プロデュース・オペラVol.6
モーツァルト 歌劇《後宮からの逃走》〜ハーレムから助け出せ!
音楽監督/指揮:現田茂夫
演出:十川稔
出演
コンスタンツェ:佐藤美枝子
ベルモンテ:錦織 健
ブロンデ:市原 愛
ペドリロ:高柳 圭
オスミン:志村文彦
太守:池田直樹
合唱:ラガッツィ
管弦楽:東京ニューシティ管弦楽団
2/22(日)14:00 サンシティホール
2/25(水)18:30 静岡市民文化会館
3/1(日)17:00 栃木県総合文化センター
3/7(土)15:00 神奈川県民ホール
3/13(金)18:30、3/15(日)14:00 東京文化会館
3/22(日)17:00 フェスティバルホール
3/24(火)18:30 福岡シンフォニーホール
問:ジャパン・アーツぴあ03-5774-3040
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