挾間美帆(作曲)

モルゴーアが作品へ大きなインスピレーションを与えてくれています

「弦楽四重奏のために曲を書くということは、可能性に挑戦するような気分。しかも今回はモルゴーアのための作品ですから、他の弦楽四重奏団よりもできることがたくさんあると思います」
 大きな期待を背負ってこのように語るのは、作曲家の挾間美帆。国立音楽大学在学中、山下洋輔に見出された彼女は「ジャズ作曲家」と自称しながら、ビッグバンドやジャズ系のアンサンブルばかりではなく、オーケストラや吹奏楽団ほかのためにさまざまな作品を作・編曲。現在はニューヨークを拠点としながら自らのアンサンブル「m_unit」を率い、活動を続けている。モルゴーアとは本誌でもおなじみの弦楽四重奏団、モルゴーア・クァルテットだ。今年で16回目となる横浜みなとみらい小ホールでの現代作曲家シリーズ『Just Composed 2015 in Yokohama』で、挾間美帆の委嘱新作がモルゴーアによって披露されるのである。
「モルゴーアの演奏を想定しながら曲が書けるのであれば、一番のポイントは“グルーヴ”だと思っています。彼らがプログレの曲を演奏しているのを聴くと“スウィンギーに”とか“グルーヴィーに”と想定しながら書いたものもきっと見事に演奏してくださる! と思えるんです。ジャズでも、デューク・エリントンや私が尊敬するマリア・シュナイダーといったバンドリーダーは、楽器ではなく個々のメンバーを想定して曲を書いたりアレンジしたりするんですが、私も同じ感覚で、あの4人のために書くという意識をとても強く持っています」
 幼少期よりヤマハの音楽教室に通い、エレクトーンと作曲を中心に学んだ。エレクトーンのコンクールに出場するため、オーケストラ・スコアを見ながら演奏用の楽譜をアレンジする課程で、近代の作曲家と音楽に魅了されたという。
「今でもレスピーギ、ラヴェル、バーンスタイン、ラフマニノフなど近現代のオーケストラ作品が大好きですし、『ローマの松』などは聴いていると3秒おきに、レスピーギって天才! と思ってしまうほど。ですから『ジャズの作曲家』と名乗っていても、オーケストラのサウンドがいつも自分の中にありますし、作曲中も音色の色彩感をどう表現するか、ということに気を遣っていますね。特に弦楽器の音が大好きですし、自分のアンサンブルにもストリングスを入れて、ビッグバンドというよりはチェンバー・オーケストラのような感覚なんです」
 大学ではクラシック〜現代音楽の手法などを学んでいたが、同時に学内のビッグバンドでピアノを弾き、マリア・シュナイダーや、ヴィレッジ・ヴァンガード・ジャズ・オーケストラのピアニストであるジム・マクニーリー、多彩なアーティストのために作・編曲を行っているヴィンス・メンドーザといったミュージシャンを知ることになる。そのうちの誰かに師事したいと思い、彼らが教えているアメリカの大学をいくつか受験してニューヨークのマンハッタン音楽院へ入学。そこでは刺激的な授業や同級生たちに囲まれ、ぐっと視野が広がって自分の音楽を模索できたと言う。
「1枚目のCDになった『ジャーニー・トゥ・ジャーニー』は、自分がやりたいことを見つけることができたために生まれたアルバム。でもジャンルという枠にはとらわれず常に新しい可能性は追求していきたいですし、フル・オーケストラの曲や吹奏楽の曲、それからバレエを習っていましたので音楽とダンスを組み合わせることにも興味をもっています」
 モルゴーア・クァルテットのための新作は、まさにそうした挑戦のひとつであり「1+1=無限大」となる可能性が高い。コンサートでは彼らが得意なプログレッシヴ・ロックの名曲ほかも演奏され、挾間の新作とのコントラストを描き出す。初演の興奮を感じられる一夜になるだろう。
取材・文:オヤマダアツシ 写真:武藤 章
(ぶらあぼ + Danza inside 2015年1月号から)

Just Composed 2015
in Yokohama 現代作曲家シリーズ
クァルテットのレッド・ゾーン?!
モルゴーアのプログレ
曲目:キング・クリムゾン:レッド、暗黒
   ピンク・フロイド:太陽讃歌、マネー
   山根明季子:畸斑(きはん)
   E.L.P:トリロジー
   挾間美帆:新曲(Just Composed 2015委嘱作品)

出演:モルゴーア・クァルテット[荒井英治(第1ヴァイオリン)、
   戸澤哲夫(第2ヴァイオリン)、小野富士(ヴィオラ)、藤森亮一(チェロ)]

3/14(土)18:00 横浜みなとみらいホール(小)
問:横浜みなとみらいホールチケットセンター045-682-2000
http://www.yaf.or.jp/mmh