小泉和裕(指揮、九州交響楽団音楽監督)

ベートーヴェンとシュトラウス、ドイツ作品の王道で飾る集大成

©勝村祐紀(勝村写真事務所)

 2023年度に創立70周年を迎えた九州交響楽団。1953年の創立以来、九州の楽壇を代表する存在であり続けてきたが、近年は急速に充実の度を深めており、全国的にもその名を見かける機会が増加している。その中心にいたのは、2013年から音楽監督を務める小泉和裕。24年3月、鹿児島、熊本、福岡、東京での70周年記念演奏会をもって退任することになり、「音楽監督としてはこれで最後になります。11年間の総決算というと大げさですが、やはり重要な公演です」と意気込みを語る。小泉と九響の関係は長く、キャリアの初期から深い縁があったという。

 「まだ藝大生だった1970年に民音指揮者コンクールで第1位になり、そのご褒美で九州や名古屋、札幌のオーケストラを振ることができました。特に九州では、妻が唐津出身ということもありましたし、他とは違う『小泉と九響』の関係が培われてきて、地元の方たちは後援会を作って30年以上引き継いでくださいました。九響の音楽監督を頼まれたのも自然な流れだったと感じています」

 もちろん小泉が監督として求められた最大の理由は、音楽面の充実と成長だ。マエストロは「自分の発言がオケのためになって、進歩につながるように」という意識でリハーサルを重ねたとのことで、その成果に穏やかに胸を張る。

 「就任時から、ドイツ音楽をレパートリーの中心にして成長させていきたいと語ってきました。この間に28名のメンバーが入団したこともあり、大曲もしっかりできるようになりました。なかでもマーラーの演奏会と録音の評判が非常に良かった。地方オケでマーラーが大成功してCD化できたことは、九響の宝物になったし、僕との成果の証明にもなったと思います」

 九響の東京公演は20年ぶり。実は4年前にも計画されていたが、コロナ禍で直前に中止に。しかし、延期された結果、九響の記念年度と小泉の勇退が重なり、より重要度が増すことになった。演目はベートーヴェン交響曲第2番とR.シュトラウス「英雄の生涯」。就任時からの方向性を象徴する2曲で、「ドイツ音楽で始まり、締める」ことになる。

 「『英雄の生涯』は大編成の大曲で、芸術家が一つのことをやり遂げるという曲であり、僕と九響がやり遂げてきたことの証明としていいのではと。最後には音楽家のバイブルというべきベートーヴェンも取り上げたいと考え、16型でやりますが、『英雄の生涯』の前に5番や6番でもないし、2番なら大編成にもふさわしく、エネルギーのバランス的にもいいと思います」

 春以降の自身の活動については「今まで通り、勉強をきちんとして、プログラムを丁寧にこなしていきます。自分で自分の活動を決められる立場になり、期待を感じるし、責任も大きい。みなさんの期待に応えていけるように、自分にプレッシャーをかけなければと思っています。歳を重ねてもまだまだ変化していきたい」。穏やかな語り口から、自らへの厳しさと衰えぬ覇気がにじむ。小泉と九響の節目の公演、聴き逃すわけにはいかない。
取材・文:林 昌英
(ぶらあぼ2024年2月号より)

九州交響楽団 70周年記念演奏会
2024.3/9(土)15:00 川商ホール(鹿児島市民文化ホール)
3/10(日)15:00 熊本/市民会館シアーズホーム夢ホール
3/20(水・祝)15:00 サントリーホール
第419回 定期演奏会
2024.3/15(金)19:00 アクロス福岡シンフォニーホール
問:九響チケットサービス092-823-0101 
http://kyukyo.or.jp
※公演によりプログラムが異なります。