2010年の春に東京都交響楽団のプリンシパル・ゲスト・コンダクターに就任(期間は3年)したヤクブ・フルシャが記者会見を開いた。10年12月の就任記念公演ではヤナーチェクの「グラゴル・ミサ」やマルティヌーの交響曲といったユニークな演目を披露して鮮烈な印象を残したフルシャはチェコ出身、現在29歳。新世代を代表する指揮者の一人だ。プラハ芸術アカデミーでビエロフラーヴェクに指揮法を学び、04年に卒業してからはチェコのオーケストラを中心に演奏活動を開始。その技術と音楽性は早くから認められ、すでに欧米の主要オーケストラに頻繁に客演し、活躍の舞台を国際的なものとしている。現在はグラインドボーン・オン・ツアー音楽監督も務めるなどオペラでも采配を振るう。08年に都響と初共演。そのときのロシアとスラブ系作品の名演が今回のポスト就任に繋がった。
「都響との最初の出会いはまさに衝撃的でした。言葉を交わさずともお互いの気持ちが通じ合ったのです。素晴らしい演奏ができた都響とこれからも共演したいと思っていたので、今回のプリンシパル・ゲスト・コンダクターというポストをいただいて本当に嬉しいです。今後は私たちの関係を深め、より成熟したものにしたいと願っています。加えて他ではできないようなプログラムを組むことができるのも嬉しいですね」
日本のオーケストラの音楽性について、次のように高く評価する。
「個性に乏しいと言う人もいますが、私は日本のオーケストラ、とくに都響は個性が強いと思っています。日本のオーケストラの長所は柔軟であること。正確なリズム感や作品の分析力を持っていて、指揮者が出すすべての指示に応えてくれるのです。技術的にも芸術的にもレベルは高く、演奏に説得力があります」
現代に求められている指揮者とは。
「世の中のニーズにバランスよく対応できるテクニックが必要だと思うのです。グローバリゼーションが進んでいる今日、かつてのトスカニーニやフルトヴェングラーのようなあり方というのは難しいと思いますね」
自身「プラハの春」指揮者コンクールでの優勝経験もあるが、コンクール自体には疑問も感じている。
「コンクールで振るのと実際のコンサートでの指揮は、まったく別ものです。コンクールというのは、様々な技術を審査する学問的なものではないかと思うのです」と述べ、指揮者の能力は、楽団員とのやりとりを通して身につくものであると強調する。オーケストラ・コンサートと並行してオペラも振る。
「コペンハーゲンの歌劇場でも《ボリス・ゴドゥノフ》を振ることになっていて楽しみにしています。私の指揮活動のウェイトですが、現在は3分の2が通常のコンサート、残りがオペラの指揮です。将来的にはコンサートの回数をもっと増やしたいと考えてはいますが、歌手と仕事をするのはとても好きなので、声楽を入れたコンサートも行いたいと思っています」
都響への次回の来日は今年の12月。マルティヌーやスークをはじめとして自国の作品の紹介に意欲的なフルシャだが、ドヴォルザークの大作「スターバト・マーテル」をとりあげる。
問:都響ガイド03-3822-0727