メンデルスゾーンが遺した壮大なコラールの世界
鈴木優人は、いま日本でもっとも多忙な指揮者かもしれない。バッハ・コレギウム・ジャパンの首席指揮者を務めながら、全国津々浦々のオーケストラを指揮。年間予定表に彼の名前が載っていない日本のオーケストラはないくらい。さらにチェンバロやオルガン奏者としても活躍、作曲や演出、プロデュースまでこなしてしまう、類い希なる才人だ。
バロックから現代曲までレパートリーも幅広い。そのなかでも、鈴木が「勝負曲」として捉えているのは、メンデルスゾーンの作品なのではないか。当時忘れられていたバッハを評価し、そのエッセンスを生かしてロマン派の語法を作り上げた作曲家だ。ことに近年は再評価も著しい。
鈴木が東京交響楽団の定期演奏会でのデビュー曲として取り上げるのが、そのメンデルスゾーンによる2つの交響曲だ。2020年、両者によるメンデルスゾーン版「マタイ受難曲」が定期演奏会で予定されていたが、コロナのために中止になっている。
交響曲第5番「宗教改革」と第2番「讃歌」は、いずれもマルティン・ルターからの影響が顕著な宗教的なシンフォニー。なかでも、「讃歌」は独唱と合唱を伴う、カンタータ的な性格をもつ。バッハの受難曲の演奏など、宗教曲を新鮮なスタイルで聴かせてきた鈴木ならではの手腕が発揮されること間違いない。この曲の独唱陣には、中江早希、澤江衣里(以上ソプラノ)、櫻田亮(テノール)ら宗教曲のスペシャリストを揃え、万全の体制で臨む。
文:鈴木淳史
(ぶらあぼ2023年8月号より)
第713回 定期演奏会
2023.8/19(土)18:00 サントリーホール
問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511
https://tokyosymphony.jp