ミケーレ・マリオッティ(指揮)

スコアへの留意とは想像力を豊かに働かせること

(c)Victor Santiago

 ついにミケーレ・マリオッティが東京交響楽団の指揮台に立つ。

 これまで彼が指揮する数々のオペラを聴き、作曲家の息づかいや鼓動までが聴こえるような生命力に満ちた音楽に圧倒されてきた。徹底してスコアを読みこみ、作曲家の訴えを曲の深奥でつかんで表現する——。言葉にすると当たり前のようだが、実現は難しいことを、マリオッティはきわめて高いレベルでこなし、なおかつ音楽にはエレガンスがあふれる。そんな才能に惹かれ、筆者はしばらく前から「いちばん好きな指揮者はマリオッティ」と公言している。

 交響曲も同様だ。イタリアで聴いたシューベルトの交響曲第4番「悲劇的」では、ほのかなロマン主義の香りや軽やかなリズムに、ロッシーニのオペラ《ラ・チェネレントラ》と同じ時期に書かれたことを強く意識させられた。見事なシューベルトだからこそ、同時代に通底する語法や空気感がたしかに伝わるのである。

 12年ぶりの来日が間近に迫ったいま、募る期待を胸にインタビューを試みた。

 マリオッティの音楽への姿勢は、以下の回答に端的に表れている。

 「スコアおよび作曲家の指示への留意は、私にとって絶対に欠かせないことです。というのも、私たちは作曲家の考えに奉仕するもので、作曲家のメッセージを——たとえ個人的なやり方であっても——まとめて提示しなければならないからです。ただし、指示に留意することは硬直化と同義ではなく、むしろ解釈のうえで想像力を豊かに働かせるということです」

経験を積み、さらなる進化を遂げる

 スコアへの誠実な姿勢と探求心に、才能に支えられた豊かな想像力が加わるから、マリオッティはいま世界で求められているのだ。昨年には、ローマ歌劇場の音楽監督に就任し、音楽家としてさらにステップアップしつつある。

 「ローマでの経験のおかげで、人間としても芸術家としても大きく成熟できています。ボローニャ歌劇場で音楽監督として成功体験を重ねたのち、ローマではこれまで以上に汎ヨーロッパ的、世界的な視野で新たなレパートリーと向き合っています。首都の劇場では世界に目を向け、世界的な諸問題に向き合い、国際的なレパートリーに取り組まないわけにはいきませんから」

 事実、この4月18日、筆者はローマ歌劇場でマリオッティが指揮するプッチーニ《外套》とバルトーク《青ひげ公の城》の二本立て公演を鑑賞し、同時期に書かれた2作品の共通性と差異を見事に表現した手腕に脱帽するしかなかった。

東響と臨む独墺の名曲

 そんなマリオッティは、このたび指揮する2曲をどうとらえているだろうか。

 「モーツァルトのピアノ協奏曲第21番 ハ長調(ピアノ:萩原麻未)は、もっとも著名で美しい曲のひとつで、それは透明性と深さが共存しているからです。和声と旋律における偉大な創造で、ユーモア、甘美さ、明るさが表現されています。一方、シューベルトの交響曲第8番『ザ・グレイト』にはマーラーを思わせるところがあり、それは第2楽章の非常に現代的な冷めた表現で示されます。シューベルトの美学の集大成で、この天才の音楽的および哲学的思考の偉大さがもっと理解されるべきです」

 こうした特徴は、マリオッティが「高い演奏能力と音楽への愛情および情熱がある」と評する東響からどう引き出されるか。演奏会が待ち遠しい。
取材・文:香原斗志
(ぶらあぼ2023年6月号より)

東京交響楽団
第711回 定期演奏会
 
2023.6/24(土)18:00 サントリーホール
川崎定期演奏会 第91回 
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問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511 
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