野村萬斎がオペラ初演出!阪哲朗らオールスターで贈る全国共同制作オペラ《こうもり》

 全国各地の公共ホール・芸術団体が連携し、新演出のオペラを共同制作して国内巡演を行うプロジェクト、全国共同制作オペラ。2023度はJ.シュトラウスⅡ世の喜歌劇《こうもり》を、11月に滋賀と東京、12月に山形で上演する。5月2日、東京公演会場の東京芸術劇場にて記者会見が行われ、演出の野村萬斎、指揮の阪哲朗、キャスト陣3名(福井敬、幸田浩子、藤木大地)が出席した。

左より: 幸田浩子、阪哲朗、野村萬斎、福井敬、藤木大地

 2009年度よりスタートした全国共同制作オペラは、15年度の井上道義指揮・野田秀樹演出による《フィガロの結婚》をはじめ、多くの話題公演を生み出してきた。
 今年度演出を手掛けるのは、狂言師の野村萬斎。伝統芸能の枠を越え、演劇・映画・テレビなどで幅広く活躍する彼だが、演出家としてもその類まれなる才能を発揮している。20年間芸術監督を務めた世田谷パブリックシアターで今年3月に上演された『ハムレット』も、大きな話題を呼んだ。
 オペラ演出は初挑戦だという野村は、新たなジャンルへと足を踏み入れる意気込みを以下のように語った。
「オペラとオペレッタの違いもよくわからない状態からのスタートでしたが、能と狂言の関係みたいだと気づきました(笑)。狂言のように、お気楽に、遊び心満載で取り組んでいきたいと思います。演出については、やはり自身の日本芸能のアイデンティティを活かした方がお客様にも楽しんでいただけると思いますので、開き直ってやっていきます。舞台も日本に移し替える予定です。
 また今回は3会場での上演ですので、“シンプルな”演出を目指しています。日本の劇場の中に息づいている『尺貫法』の感覚を意識し、派手なセットや書割をなるべく使わず、伸縮自在に空間を活かしていきたいです。その分、キャストの皆さんには身体的な表現も要求するかもしれません。『オペレッタを観に来たはずなのに!』となるような公演を目指します」

野村萬斎

 指揮を務めるのは、今年度からびわ湖ホール・3代目芸術監督に就任した阪。同ホールでの上演に、山形公演では常任指揮者を務める山形交響楽団が管弦楽を担当するなど、今年度のマエストロとしてこれ以上の適任者はいないだろう。
 《こうもり》は欧州で経験を積んだ阪にとっては「三桁以上の回数は指揮をしたと思う」と語る十八番で、大学入学後初めて取り組んだ思い入れのある作品でもあるという。
「今回の公演ではオペラ団体の枠を越えたオールスターが揃いました。芝居も踊りも歌も、と総合力が求められるオペレッタで、芸達者なキャストの皆さんとご一緒できるのが楽しみです。オペレッタというジャンルには、民族色が強い、出演者だけが悪ノリ的に盛り上がりお客様が置いてけぼりにされる可能性がある、など様々な難しさが潜んでいます。萬斎さんの“シンプルな”演出の中で、日本的な『間』を意識しつつ芝居と音楽のスピードをシンクロさせる作業を、歌手の皆さんの意見も伺いながら行っていきたいと思います」

阪哲朗

 阪も語ったように、日本を代表する歌手が集結した本公演。会見に出席した3名のキャストは、それぞれ以下の通りコメントを寄せた。
 「《こうもり》を演じるたびに、絢爛な表舞台の裏でとんでもない馬鹿騒ぎが行われていた、『時代の危うさ』のようなものを感じます。萬斎さんの演出では、そんな世紀末的なところから新たなものが生まれてくるような公演になるのではないか、と楽しみにしています」(福井敬・アイゼンシュタイン役)

福井敬

 「《こうもり》の第2幕では登場人物全員が別人に変装しますが、萬斎さんから『能楽でも面(おもて)を着けるんです』と聞いて、『他の人になってみたい』という気持ちは古今東西変わらないのだなと感じました。他人を演じるという“非日常”を経験したからこそ“日常”の愛しさを実感できることを、パンデミックを経験した皆さんとも共有しながら今回の舞台を創り上げていけたらと思います」(幸田浩子・アデーレ役)

幸田浩子

 「オルロフスキー公爵の役はレパートリーの一つではありますが、実際に出演するのは今回が初めてです。同役を『女性の音域を男性が歌う』カウンターテナーが演じる、ということにフォーカスが当たりがちだと思いますが、今回はそこではなく、『藤木大地というひとりの人間が演じる』という点に注目していただけたらと思います」(藤木大地・オルロフスキー公爵役)

藤木大地

 才気あふれる狂言師とクラシックのアーティストがどのような化学反応を起こすか、期待が高まる。

Information

全国共同制作オペラ
J.シュトラウスⅡ世:喜歌劇《こうもり》

2023.11/19(日)14:00 びわ湖ホール 7/8(土)発売
11/25(土)14:00 東京芸術劇場 コンサートホール 
7/1(土)発売
12/17(日)14:00 やまぎん県民ホール
 7/29(土)発売

演出:野村萬斎
指揮:阪 哲朗
管弦楽:日本センチュリー交響楽団(滋賀)、ザ・オペラ・バンド(東京)、山形交響楽団(山形)

出演
アイゼンシュタイン:福井 敬
ロザリンデ:森谷真理、田崎尚美*
フランク:山下浩司
オルロフスキー公爵:藤木大地
アルフレード:与儀 巧
ファルケ博士:大西宇宙、青山 貴*
アデーレ:幸田浩子
ブリント博士:晴 雅彦
フロッシュ:桂 米團治
イーダ:佐藤寛子

*山形公演

問:びわ湖ホールチケットセンター077-523-7136 https://www.biwako-hall.or.jp
  東京芸術劇場ボックスオフィス0570-010-296 https://www.geigeki.jp
  やまぎん県民ホール チケットデスク023-664-2204 https://yamagata-bunka.jp