INTERVIEW 秋山和慶(指揮)〜ウィーン・プレミアム・コンサート「一夜限りのロマンティックな奇跡」

たった一夜が、貴重な夜となる合同演奏会

取材・文:片桐卓也

 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とウィーン国立歌劇場で活動するメンバーを中心に、トップアーティスト30名を本公演のために集めた室内オーケストラ「トヨタ・マスター・プレイヤーズ,ウィーン(TOMAS)」が4月から全国で公演を行う。今年は「ウィーン音楽 3つの奇跡!」と題して、個性的な3つのプログラムが用意された。

 そのツアーの中で、4月13日に愛知県芸術劇場コンサートホールで開催される「一夜限りのロマンティックな奇跡」は、本当に一夜限りの特別なコンサートだ。TOMASと名古屋フィルハーモニー交響楽団の合同演奏によってブルックナーの交響曲第4番 変ホ長調「ロマンティック」が演奏される。指揮は日本を代表するベテラン・秋山和慶。そして、前半にはJ.S.バッハの「オーボエとヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調 BWV1060」がベルンハルト・ハインリヒス(オーボエ)、フォルクハルト・シュトイデ(ヴァイオリン)の独奏で演奏される。
 この演奏会のタクトをとる秋山にブルックナーの魅力、そして合同演奏への期待を伺った。

「ブルックナーの交響曲第4番『ロマンティック』は比較的初期の交響曲であり、彼の交響曲のなかでも一番聴きやすい作品だと思います。心になじみやすいというか、聴き手の気持ちの中に音楽がすっと入ってきます」

 ブルックナーは1824年生まれで、交響曲第4番は1874年に第1稿が完成したので、作曲家が50歳の時の作品ということになる。ご存知の方も多いだろうけれど、ブルックナーはその第1稿の完成後も何度か改訂を試みていて、89年に出版された楽譜は第3稿を元にしたとされている。

「ブルックナーという人は、弟子のマーラーなどと較べると、波瀾万丈とは言いがたい、つまり比較的淡々と、しかし歩みを着実に進めるような作曲家人生を送ったと言えるでしょう。その中で、常に自分の作品を振り返る態度を持っていたので、自分の書いた交響曲を何度も改訂することが起こったのだと想像します」

 秋山は1964年に東京交響楽団を指揮してデビューを飾ったが、ブルックナーの作品を取り上げたのは70年代に入ってからだと言う。

「一時期は日本のオーケストラでブルックナーとマーラーを取り上げることがブームとなった時代もありました。それは日本のオーケストラの技術が上がってきた時代でもあったと思います。その後一段落していましたが、改めてブルックナーの音楽に向き合うという傾向が最近見られるようになっていると思います」

 秋山が今回の合同演奏で注目しているのは、ウィーン独自の演奏スタイル、特に管楽器の演奏だと言う。

「日本のオーケストラのメンバーに色々と聞いてみると、ウィーンの演奏伝統のなかで特に難しいと感じるのは、ウィーン式のホルン、よくウィンナホルンと呼ばれる独特の演奏システムだそうです。ウィーンの演奏家が伝統として持ち続けているもので、これをマスターするのはとても大変らしい。今では日本の楽器メーカーもウィンナホルンを作っていますが、それでも演奏は難しいと言います。今回、ウィーンからやって来るふたりのホルン奏者はウィーン・フィルで活躍するメンバーなので、その音色がどういう風に日本のオーケストラとブレンドされるのか、私としても初めての経験なので、とても楽しみですね」

 TOMASの芸術監督であり、コンサートマスターでもあるフォルクハルト・シュトイデはやはりウィーンの伝統を現在も音楽に息づかせている存在で、日本でも彼のファンが多い。

「日本のオーケストラも近年は本当に実力が上がってきて、また若い演奏家も多くなりました。現在はちょうど世代交代が進んでいるところかと思いますが、そうした中で、ウィーンの演奏を受け継いでいる演奏家たちと交流することは、とても刺激になるでしょう」

 秋山はもちろん海外でも長い指揮経験を持っているが、オーストリア、あるいはウィーンのオーケストラを指揮した経験はないそうだ。それだけに、今回の合同演奏は貴重な機会となる。

「実はバンクーバー交響楽団を指揮していた時代に、ウィーンからヴィリー・ボスコフスキーさんを招いたことがありました。彼は1979年にウィーン・フィルのニューイヤーコンサートでコンサート・マスター引退した訳ですが、そのすぐ後のことです。何回かバンクーバーで指揮をしていただく中で、ウィーン風ワルツのリズムの取り方について極意をオーケストラに伝えてくれました。それは今もまだオーケストラの中に伝わっていると思いますが、そうした経験はなかなかできないものでしょう。今回の合同演奏を通して、名古屋フィルのメンバーに音楽的な何かが残れば、それは大きな意味を持つでしょうね」

 聴き手もまたそのケミストリーに期待しているはずだ。

Information

ウィーン・プレミアム・コンサート
2023.4/6(木)〜4/16(日) 札幌、仙台、東京、豊田、名古屋、大阪、熊本


【プログラムC】
一夜限りのロマンティックな奇跡
4/13(木)19:00 愛知県芸術劇場 コンサートホール


出演/トヨタ・マスター・プレイヤーズ,ウィーン、名古屋フィルハーモニー交響楽団(以上管弦楽)、秋山和慶(指揮)、ベルンハルト・ハインリヒス(オーボエ)、フォルクハルト・シュトイデ(ヴァイオリン)
曲目/J.S.バッハ:オーボエとヴァイオリンのための協奏曲 ニ短調
   (トヨタ・マスター・プレイヤーズ,ウィーン単独演奏)
   ブルックナー:交響曲 第4番「ロマンティック」
   (名古屋フィルハーモニー交響楽団との合同演奏、指揮:秋山和慶)

問:中日新聞コンサートデスク052-678-5323
https://www.toyota.co.jp/tomas/
※その他プログラムなどの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。