上野の街が音楽で包まれる♪
無料イベントも充実の東京春祭2023

開園150周年の上野公園との特別企画に、
街角の小さなコンサートが4年ぶりに復活!

(C)Spring Festival in Tokyo / Koji Iida

文:宮本 明

 街角に音楽が戻ってくる。
 「東京・春・音楽祭」の期間中、会場周辺の商店街には音楽祭の鮮やかなピンクのバナーが飾られ、上野の街全体が「ハルサイ」ムードに華やぐ。その街のあちらこちらで行なわれる無料のミニ・コンサートが「桜の街の音楽会」だ。2019年以来の再開。桜予報では、今年の上野公園の開花は3月21日、満開は3月29日となっているから、とくに音楽祭前半は文字どおりの「桜の街」が楽しめそうだ。
 もちろんこれを目当てに出かける人だって大勢いるが、もし知らずに通りがかったなら、それはもうクラシック版路上ゲリラ・ライブのようなもの。めちゃくちゃアガるやつだ。鵜の目鷹の目で粗探しするような聴き手なんかいない、気持ちいい音楽の広場。
 今年の「桜の街の音楽会」の開催場所をいくつか紹介しよう。


 上野を訪れる多くの人が利用するJR上野駅。「ハルサイ」開幕に先駆けて、「桜の街」 は3月4日に入谷改札前の跨線橋「パンダ橋」でスタートする。広々とした通路には、ビルや樹々に切り取られずに高い空が広がって開放的。一方、改札内の「エキュート上野」も会場のひとつ。公園改札の奥、11番線と12番線ホームの真上にある紀ノ国屋アントレ前の空間がステージとなる。

 駅には今年新たに音楽祭に加わったコンテンツもある。公園改札内の「駅ピアノ」だ。誰が弾いてもOKのストリート・ピアノ。すでに2月下旬に設置され、多くの人がチャレンジしている。先日通りがかったら、持参の三脚にスマホをセットして、ショパンのノクターンを弾く勇姿を動画で自撮りしている人もいた。なるほど! 設置期間は3月19日まで。音楽祭のプレイベント的な位置付けだ。

JR上野駅構内(公園口改札)に設置された「駅ピアノ」
(C)Spring Festival in Tokyo / Koji Iida
(C)Spring Festival in Tokyo / Koji Iida

 音楽祭のメイン会場・東京文化会館がある上野公園内でも、「桜の街の音楽会」が盛んに開かれる。
 まず東京文化会館の外観上の特徴である大きくめくれ上がったキャノピー(庇)の下のスペース。期間中は、キャノピーを支える柱に、高さ4メートル、直径2メートルの巨大な装飾が巻きつけられて目を引く。
 その向かいの国立西洋美術館の前庭も「桜の街」の会場となる。オーギュスト・ロダン作のブロンズ像「地獄の門」の前だ(入場無料)。ちなみにこの「地獄の門」や「考える人」「カレーの市民」など、前庭にあるロダンの作品群は、屋外に無料で展示されているせいか、コピーだと思われがち。しかしどれも、公式の鋳型から鋳造されたれっきとしたオリジナルだ。国立西洋美術館に面した東京文化会館北側には屋外ミュージアム「西洋を魅了したニッポン本草デザイン」も出現する。「本草」ってなに?
 東京都美術館の「佐藤慶太郎記念アートラウンジ」も入場無料エリア。美術館だけあって、なにげに置かれたチェアやソファも洗練された北欧デザインというのがいい。

 上野公園から東京藝術大学の音楽学部と美術学部の間を抜けて、上野桜木の交差点にあるのが「旧吉田屋酒店」。明治の木造建築で、現在は下町風俗資料館となっているが、1986年(昭和61年)まで営業していた建物(その後現在地に移築)というからすごい。通りの向かいの人気の古民家カフェ「カヤバ珈琲」にも立ち寄りたい。
 「旧岩崎邸庭園」は上野公園から不忍池をはさんだ池之端にある。三菱財閥の岩崎久彌(彌太郎の長男)の本邸として1896年(明治29年)に建てられた。緩やかなスロープを上るといきなり目に飛び込んでくるゴージャスな木造の洋館。鹿鳴館を手がけたジョサイア・コンドルの設計で、国の重要文化財に指定されている。そのテラスでの演奏を、広大な庭園の芝生に座って聴くぜいたく(入園料=一般¥400/65歳以上¥200)。
 JR上野駅から徒歩5分、東上野の「ノーガホテル上野東京」は、調度品から食材まで、地域の伝統とモダンが共存するホテル。レストラン「ビストロ・ノーガ」のランチ利用者限定のコンサートがある(要予約)。
 上野以外のエリアにも進出している「桜の街」。「田町グランパークタワー」「浜松町シーバンス」「神谷町トラストタワー」といったオフィスビルで、昼休みのコンサートが開催される。

 無料のミニ・コンサートではあるものの、「桜の街」には実力派の旬のアーティストたちが次々に登場する。ヴァイオリン独奏から金管アンサンブル、木管アンサンブル、そして津軽三味線まで多彩かつ充実のラインナップだ。注目は2組のデュオ。
 高松亜衣(ヴァイオリン)と猪居亜美(ギター)は今回が初共演という二人だが、高松が15万人、猪居が9万人のチャンネル登録者を持つクラシック系人気YouTuberだ。猪居は昨年の全米ギター協会のコンクール第4位の俊英。
 本場スペインでプロのキャリアを積んだフラメンコ・ギターの徳永兄弟は、向こうでも一目置かれる存在。フラメンコとクラシックの融合という前例のないジャンルを開拓して注目を浴びている二人だ。
 誰がいつどこに出演するか、詳細は公式サイトで。また、上記以外にも、今年は全40公演前後を開催予定とのこと。随時更新される最新情報を確認してほしい。

上野公園の自然とクロノス・サウンドを愉しむ

 ところで、上野公園は今年開園150周年を迎えている“日本初の公園”だ。上野戦争(戊辰戦争)で焼け野原となった寛永寺の境内が、1873年(明治6年)、日本で初めて「公園」に指定されたのだ。
 そんな長い歴史のある公園散策にうってつけなのが「Ellen Reid SOUNDWALK」だ。エレン・リードは1983年生まれのアメリカの女性作曲家……、というかマルチなサウンド・アーティストで、ピューリッツァー賞を受けたオペラ《プリズム》(2018)も書けば、この作品のようなサウンド・インスタレーションも制作する。

SOUNDWALKアイコン
エレン・リード (C)Spring Festival in Tokyo

 「SOUNDWALK」は、公園内を歩きながら専用のスマートフォン・アプリ(無料)で音楽を楽しむというパブリック・アート。スマホがGPS情報を読み取って、歩行距離やルートによって、歩くたびに聴こえてくる音楽が変化するという仕掛け。クロノス・クァルテットが協力しており、彼らの新曲委嘱プロジェクト「50 for the Future(未来のための50曲)」の音源が使用されている。
 現代の音楽と最新のテクノロジーが、公園の150年の歴史とひとつになって新しい音体験が生まれる。「東京・春・音楽祭」の一環だが、3月6日から約1年間継続されるというから、桜の季節に始まる四季折々の上野公園の風景を彩る、あなただけのクロノス・サウンドに向き合えそうだ。

 音楽と上野を、無料で気軽に楽しめる「東京・春・音楽祭」の関連企画。スルーしてはもったいない。


Information

桜の街の音楽会
※各回約20 ~30分のコンサートです。
※ご鑑賞は無料ですが、会場となる施設への入館料や事前申込みが必要な場合がございます。
※当日の天候状況等により、予告なく開催を中止する場合がございます。

Ellen Reid SOUNDWALK
featuring Kronos Quartet and 50 for the Future

期間:2023.3/6(月)〜(約1年間)
会場:上野恩賜公園

アーティスト:エレン・リード、クロノス・クァルテット /他
プログラム:SOUNDWALKアンサンブルによる作品、クロノス・クァルテット「50 for the Future」より
※専用のアプリ及び詳細は2月以降順次ホームページで情報公開予定です。

東京・春・音楽祭 × モバイルミュージアム
『西洋を魅了したニッポン本草デザイン――上野恩賜公園開園150年に向けて』

2023.3/6(月)〜4/16(日)上野恩賜公園(東京文化会館 北側)
※開催期間中、どなたでも自由にご覧いただけます。