春祭ジャーナル Pick Up♪『キット・アームストロング』〜「鍵盤音楽年代記(1520-2023)I〜Ⅴ」に寄せて

東京・春・音楽祭公式ウェブサイトで掲載中の「春祭ジャーナル」。音楽祭のプログラムや出演アーティストの魅力を紹介する人気コーナーから、選りすぐりの記事をPick Up!

春祭ライブラリー『キット・アームストロング賛江(1)(2)』
1992年ロサンゼルス生まれ、生物学、物理学、数学を学び、作曲も行う知性派ピアニスト、キット・アームストロング。東京春祭2023では、5日間で鍵盤音楽の500年の歴史を奏でるリサイタルシリーズ「鍵盤音楽年代記(1520ー2023)Ⅰ〜Ⅴ」に登場する。音楽ジャーナリスト・池田卓夫さんによるコラムでは、アームストロングの多才な魅力を2回に分けて紹介しています。

文・池田卓夫(音楽ジャーナリスト@いけたく本舗®︎)

楽器と作曲、演奏〜「音楽史」の3つの軸を自由自在にひも解くキュレーター 
〜キット・アームストロング賛江(1)

 「私は演奏家としての自分の立ち位置を、美術館のキュレーター(学芸員)のようなものだと思っています。過去の芸術作品の傑作を見つめ『どのようなコミュニケーションの手法を用いれば、鑑賞するみなさんの理解が深まるのだろうか』とばかり、考えているのです」。東京・春・音楽祭2023で5回にわたるリサイタル・シリーズ「鍵盤音楽年代記(1520ー2023)Ⅰ〜Ⅴ」に挑むキット・アームストロング(1992年3月5日、ロサンゼルス生まれ)は、自身の「他の演奏家に比べ自意識の少ない」演奏スタイルを美術館や博物館の学芸員に喩えてみせる。その第1の対象は、音楽史そのものだ。

(C)Marco Borggreve

すべての人々への「祈り」をこめ、聖テレーズ教会から「普遍の真実」を発信 
〜キット・アームストロング賛江(2)

 キット・アームストロングの日本でのピアノ・リサイタルを過去3回、聴いた。最後は2019年2月4日、東京・築地の浜離宮朝日ホール。前半のクープランからJ・S・バッハ、フォーレにかけては鍵盤音楽の歴史、調性に対する嗜好の変遷、和声の流動化プロセスを様々な角度から検証し、現時点の私たちが「いったい、どこに立っているのか」を確かめる〝沈潜の旅路〟。後半はバードの素朴な舞曲の躍動感が一転、リストの錯綜した変奏曲の超絶技巧にとってかわる〝跳躍の旅路〟。終演後に振り返ると、音楽史の巨大なパズルを完成させたような達成感を覚えるのは、過去2回と同じ。数学と化学の学位も取得、哲学や演劇まで広い視野を持つ頭脳が生むパルスには、限界がないようだ。

(C)Marco Borggreve

東京・春・音楽祭 2023
キット・アームストロング(ピアノ) 鍵盤音楽年代記(1520-2023)Ⅰ〜Ⅴ

Ⅰ【1520-1620:The Golden Age】

2023.4/1(土)16:00 東京文化会館(小)
●曲目
T.プレストン:ラ・ミ・レの上で
J.ブル:
 イン・ノミネ IX *
 幻想曲 ニ短調 *
 幻想的なパヴァーヌとガイヤルド
G.ファーナビー:マスク ト短調 *
W.バード:
 ヒュー・アシュトンのグラウンド *
 荒涼とした森を歩きますか *
W.バード:
 オックスフォード伯爵の行進曲*
 鐘 *
 パヴァーヌとガイヤルド「ウィリアム・ピーター卿」
T.タリス:御身はまことに幸いなる者 I *
J.P.スウェーリンク:半音階的幻想曲
*・・・《フィッツウィリアム・ヴァージナル・ブック》より

Ⅱ【1620-1720:Contrast】

4/4(火)19:00 東京文化会館(小)
●曲目
J.S.バッハ:
 「かくも喜びに満てるこの日」 BWV605
 「古き年は過ぎ去り」 BWV614
 「主イエス・キリスト、われ汝を呼ぶ」 BWV639
 「おお主なる神よ、われを憐みたまえ」 BWV721
 「主イエス・キリストよ、われら汝に感謝す」 BWV623
 「人みな死すべきもの」 BWV643
ヘンデル:
 《ハープシコード組曲 第1集》第5番 ホ長調 HWV430
 パッサカリア
J.ブル:地の偉大なる創造主
エリザベト=クロード・ジャケ・ド・ラ・ゲール:《クラヴサン曲集 第1巻》第1組曲 より 前奏曲とシャコンヌ 「移り気な女」
F.クープラン:
 《クラヴサン曲集 第2巻》第6組曲 より 第5曲 「神秘的なバリケード」
 《クラヴサン曲集 第2巻》第11組曲 より 第3曲 「生まれながらのあでやかさ」
 《クラヴサン曲集 第1巻》第4組曲 より 第4曲 「目覚まし時計」
 《クラヴサン曲集 第2巻》第8組曲 より 第8曲 「パッサカリア」
J.C.シャンボニエール:《ボーアン写本 第1巻》より シャコンヌ ヘ長調
J.S.バッハ:
 協奏曲 ト長調 BWV980(ヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲 変ロ長調 RV381にもとづく)
 半音階的幻想曲とフーガ ニ短調 BWV903

Ⅲ【1720-1820:Enlightenment of Heart and Mind】

4/6(木)19:00 東京文化会館(小)
●曲目
J.S.バッハ:
 《平均律クラヴィーア曲集 第1巻》より 第1番 ハ長調 BWV846
 《平均律クラヴィーア曲集 第2巻》より 第22番 変ロ短調 BWV891
ハイドン:変奏曲 ヘ短調 Hob.XVII:6
モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第10番 ハ長調 K.330
C.P.E.バッハ:自由な幻想曲 嬰ヘ短調 Wq.67, H.300
モーツァルト:自動オルガンのための幻想曲 ヘ短調 K.608
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第14番 嬰ハ短調 op.27-2《月光》

Ⅳ【1820-1920:Visions】

4/8(土)16:00 東京文化会館(小)
●曲目
ショパン:
 夜想曲 第5番 嬰ヘ長調 op.15-2
 夜想曲 第6番 ト短調 op.15-3
 夜想曲 第8番 変ニ長調 op.27-2
ドビュッシー:《映像 第1集》
リスト:《超絶技巧練習曲》S.139 より
 第8番 荒野の狩
 第11番 夕べの調べ
 第10番 熱情
フォーレ:夜想曲 第6番 変ニ長調 op.63
リスト:
 モショーニの葬送 S.194
 死のチャールダーシュ S.224
 暗い雲 S.199
シェーンベルク:6つのピアノ小品 op.19
L.オーンスタイン:飛行機に乗って自殺

Ⅴ【1920-2023:Among All  Cultures】

4/10(月)19:00 東京文化会館(小)
●曲目
ラフマニノフ:コレッリの主題による変奏曲 op.42
ゴドフスキー:《ジャワ組曲(フォノラマ〜ピアノのための音紀行)》より 第4巻 第10曲 クラトン(王宮)にて
ガーシュウィン:《ジョージ・ガーシュウィン・ソングブック》より
 私の好きな彼
 ドゥー・ドゥー・ドゥー
 スワニー
 フー・ケアーズ?
 アイ・ガット・リズム
K.S.ソラブジ:
 《100の超絶技巧練習曲》より 第26番 最高に甘く
 《3つのパスティーシュ》KSS31 より 第3番 リムスキー=コルサコフの歌劇《サトコ》より「インド商人の歌」によるパスティーシュ
G.リゲティ:
 《ムジカ・リチェルカータ》より
  第8曲 ヴィヴァーチェ、エネルジコ
  第7曲 カンタービレ、モルト・レガート
 《ピアノのためのエチュード 第1巻》より 第5曲 虹
 《ピアノのためのエチュード 第2巻》より 第10曲 魔法使いの弟子
ペルト:アリーナのために
K.アームストロング:素描のエチュード
武満 徹:雨の樹 素描 II ーオリヴィエ・メシアンの追憶にー

●料金
5公演通し券(S席相当)¥25,000 ※東京・春・音楽祭チケットサービスのみで取扱い
S¥6,000 A¥4,500 U-25¥2,000(各回)
ライブ・ストリーミング配信¥1,200(配信チケットは2023.2/25(土)12:00発売)

【来場チケット販売窓口】
東京・春・音楽祭オンライン・チケットサービス(web)
要会員登録(無料)
●東京文化会館チケットサービス(電話・窓口)
TEL:03-5685-0650(オペレーター)


【お問い合わせ】
東京・春・音楽祭サポートデスク03-6221-2016