偉人たちとの対比で楽聖を読み解くシリーズがついに完結
「音楽の背後にある時代やその芸術と照らし合わせることでベートーヴェンを浮き彫りにするシリーズ。とても新鮮でした。ベートーヴェンの多面性、これまで知り得なかった面を見ることができたと思います」
Hakuju Hallの「仲道郁代 ベートーヴェンへの道 〜ベートーヴェン 鍵盤の宇宙」が最終回(全6回)を迎える。ナポレオン、ヘーゲル、クリムト、北斎、シェイクスピア。ナビゲーター浦久俊彦とともに、トークも交えて、さまざまな偉人たちとの対比の中でベートーヴェンを読み解いてきた。今回のテーマはマルティン・ルター。
「北斎には驚きましたが、ルターは私の中でもピンと来ました。音楽は神からのプレゼントであると語って、音楽の力を信じた人。私はキリスト教徒ではないですが、ルターには親近感があるんです。子どもの頃にアメリカに住んでいたことがあります。ルター派教会が多い街で、公立の学校でも合唱と吹奏楽の授業が毎日ある。とにかくみんな歌っているんです。音楽が人の気持ちをひとつにすることを、とても身近に感じていました。
ベートーヴェンの信仰についてははっきりわからないのですけれども、何らかの宗教的な、偉大なる存在というものを信じていたと思います。彼のモティーフの扱いとキリスト教的な考え方が結びつくのではないかと考えました」
曲目はピアノ・ソナタ第9番と「悲愴」「月光」。
「私はベートーヴェンが『悲愴』で自分の苦しみを書いたのではなく、『悲愴的なるものとは何か』を書いたと思っています。概念的な作品なんですね。与えられた苦難に対してどう救済されるかが宗教のひとつの側面だとしたら、この曲は明らかにそこを書いています。『月光』は、第1楽章がキリスト教的なモティーフでできていると考えられるのですが、それが第3楽章では人間の力に変貌します。苦難をどう乗り越えていくか。ルターというテーマに結びつくかなと思います」
レクチャーの要素も見逃せない。ポイントとなるモティーフや作品の構造を、ピアノを弾きながら解説してくれるので、興味が深まるし、直後の演奏がとても聴きやすくなる。
「作品に入り込む“ドア”の役目になれば。そこから入って、あとはみなさんご自身が自由に思いを広げていただければいいなと思います」
ライフワークであるベートーヴェンに真摯に向き合い続ける仲道。その研究と実践に導かれた見識の一端に直接触れる、またとない機会でもある。終了が寂しいシリーズだ。
取材・文:宮本明
(ぶらあぼ2023年1月号より)
仲道郁代 ベートーヴェンへの道 最終回
ベートーヴェン 鍵盤の宇宙 第6回「ベートーヴェンとルター」
2023.1/28(土)15:00 Hakuju Hall
問:Hakuju Hall チケットセンター03-5478-8700
https://hakujuhall.jp