東京・春・音楽祭 2023 ラインナップ発表!

世界のトップアーティストが集結し“フルバージョン”で開催

文:飯尾洋一

リッカルド・ムーティ(2022.3/18リッカルド・ムーティ指揮 東京春祭オーケストラ)
(c)Spring Festival in Tokyo 2022 Naoya Ikegami

 この春も桜咲く上野を舞台に「東京・春・音楽祭」が開催される。期間は3月18日から4月16日まで。東京文化会館をはじめ、上野の各美術館や博物館を舞台に、オペラから室内楽、リサイタルまで大小さまざまな規模の公演が開催される。リッカルド・ムーティやマレク・ヤノフスキといった巨匠たちがオペラを指揮する一方で、上野の街を舞台に展開する無料のミニ・コンサート「桜の街の音楽会」も復活する。ついにフルバージョンの「東京・春・音楽祭」が帰ってきた。

左:マレク・ヤノフスキ(c)Felix Broede
右:2022.3/30《ローエングリン》(c)Spring Festival in Tokyo 2022 Fumiaki Fujimoto

 最大の注目は演奏会形式による3つのオペラ。リッカルド・ムーティによる「イタリア・オペラ・アカデミー in 東京」の一環として、今年はヴェルディの《仮面舞踏会》が上演される。2021年の《マクベス》は語り草の名演となったが、今回もヴェルディの真髄を披露してくれることだろう。アカデミーではムーティが若い音楽家たちにヴェルディの奥義を伝授する。リハーサル聴講者の募集も再開されるほか、《マクベス》の際も好評だったマエストロによる作品解説も行われる。
 音楽祭の看板シリーズ「東京春祭ワーグナー・シリーズ」では《ニュルンベルクのマイスタージンガー》が上演される。マレク・ヤノフスキ指揮NHK交響楽団の強力コンビが今回も実現。長大なオペラではあるが、長さを感じさせない引き締まったサウンドを堪能させてくれるはず。ヴァルター役は現在欧州を席巻するイギリス出身のテノール、デイヴィッド・バット・フィリップ。ザックス役のエギルス・シリンス、エファ役のヨハンニ・フォン・オオストラムら、歌手陣にも大いに期待が高まる。

左:エギルス・シリンス
右:デイヴィッド・バット・フィリップ(c)Andrew Staples

 そしてもうひとつのオペラが「東京春祭プッチーニ・シリーズ」。今回は名作中の名作《トスカ》が上演される。ブルガリア出身のクラッシミラ・ストヤノヴァが題名役を、ブリン・ターフェルが十八番のスカルピアを歌う。メトロポリタン・オペラやバイエルン国立歌劇場、新国立劇場など各地の歌劇場で実績豊富なフレデリック・シャスランが読売日本交響楽団を指揮する。なお、ターフェルは「Opera Night」で沼尻竜典指揮東京交響楽団とも共演する。名歌手の至芸をたっぷりと味わいたい方はぜひ。

左より:フレデリック・シャスラン(c)Martinez、クラッシミラ・ストヤノヴァ(c)Brescia e Amisano Teatro alla Scala、ブリン・ターフェル(c)Mitch Jenkins DG

 「東京・春・音楽祭」にはこの音楽祭ならではのテーマ性に富んだシリーズ企画がいくつもある。「合唱の芸術シリーズ」ではブラームスの「ドイツ・レクイエム」を東京オペラシンガーズと東京都交響楽団の演奏で。2020年マーラー国際指揮者コンクールで1位を獲得した新鋭、フィネガン・ダウニー・ディアーが日本デビューを果たす。「歌曲シリーズ」ではバスのタレク・ナズミが名手ゲロルト・フーバーと共演してシューベルト「冬の旅」を歌う。シリーズ「ベンジャミン・ブリテンの世界」は今回が最終回。中嶋朋子のナレーションによる「青少年のための管弦楽入門」に加えて、辻本玲独奏で「チェロと管弦楽のための交響曲」を聴けるのがうれしい。恒例の「マラソン・コンサート」は、上野公園開園150周年に合わせて「ヨーロッパ流〈集いの楽しみ〉――音楽・公園・博覧会」がテーマ。モーツァルト、ワーグナー、J.シュトラウスIIを軸に音楽史をたどる。珍しい作品を聴ける「東京春祭ディスカヴァリー・シリーズ」では、チェコのボフスラフ・マルティヌーに光を当てる。

左:フィネガン・ダウニー・ディアー(c)Frank Bloedhorn-Finn
右:タレク・ナズミ

 毎回大人気の「ベルリン・フィルのメンバーによる室内楽」では、第1コンサートマスターの樫本大進、第1ソロ・ヴィオラ奏者のアミハイ・グロス、ソロ・チェロ奏者オラフ・マニンガー、そしてピアノのオハッド・ベン=アリが登場。ブラームスのピアノ四重奏曲第2番他で、ミニ・ベルリン・フィルと呼びたくなるような緻密なアンサンブルを披露してくれるだろう。
 ほかに室内楽公演では、吉井瑞穂のオーボエとウェールズ弦楽四重奏団の共演も、新鮮な組合せという点で興味深い。ミュンヘン・フィルのコンサートマスターを務める青木尚佳は、ジャノ・リスボアのヴィオラ、ウェン=シン・ヤンのチェロとともに、モーツァルトのディヴェルティメント変ホ長調他を。ホルンの福川伸陽は、高田あずみ(バロック・ヴァイオリン)、三宮正満(バロック・オーボエ)、川口成彦(フォルテピアノ)ら日本を代表する古楽の名手とともにバロック・アンサンブルとして登場する。これは楽しみだ。

左:吉井瑞穂(c)Marco Borggreve 右:ウェールズ弦楽四重奏団(c)Satoshi Oono

 ピアニストでは、才人キット・アームストロングの5公演にわたる「鍵盤音楽年代記」が目をひく。なんと16世紀から21世紀に至るまでの鍵盤音楽の歴史を紐解くリサイタル・シリーズ。音楽的視野の広さはこの人ならでは。もうひとり世界の注目を集める気鋭がヤン・リシエツキ。ショパンの練習曲と夜想曲を交替で弾くプログラムがおもしろい。

左:キット・アームストロング(c)JF Mousseau
右:ヤン・リシエツキ(c)Christoph Kostlin

 音楽祭の名物企画「ミュージアム・コンサート」もバラエティに富んでいる。とりわけ「東博でバッハ」では、ヴァイオリンの周防亮介、フォルテピアノの川口成彦、チェロの上村文乃ら強力なラインナップが並ぶ。
 なお、今年も有料ライブ・ストリーミング配信が実施される。昨年同様、オンデマンド配信はなく、会場に足を運べない人に向けた「ネット席」といった位置づけ。高画質、高音質で会場の興奮を伝える。音楽祭のもうひとつの楽しみ方として大いに活用したい。

2022.3/23東博でバッハ vol.54 伊藤悠貴(チェロ)(c)Spring Festival in Tokyo 2022 Yusuke Masuda

東京・春・音楽祭 2023 【配信あり】
2023.3/18(土) 〜4/16(日)
東京文化会館、東京藝術大学奏楽堂(大学構内)、旧東京音楽学校奏楽堂、国立科学博物館、東京国立博物館、東京都美術館、上野の森美術館 他
東京・春・音楽祭サポートデスク03-6221-2016

https://www.tokyo-harusai.com
※プログラム、チケット発売日などの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。