エリック・ル・サージュ(ピアノ)

日本の俊英たちとの室内楽でフランクのアニヴァーサリーを寿ぐ

 南仏のエクサン・プロヴァンスに生まれ、1992年よりポール・メイエ(クラリネット)、エマニュエル・パユ(フルート)等とともにサロン・ド・プロヴァンス国際室内楽音楽祭を主宰しているピアニストのエリック・ル・サージュは、ソロ、コンチェルトのみならず室内楽で活発な活動を展開し、その分野における名手と称される。そのル・サージュが「神に愛された作曲家 セザール・フランク ─フランク生誕200周年記念公演─」を京都コンサートホール アンサンブルホールムラタで開く。彼にとって、フランクは深い敬愛の対象であるようだ。

 「私にとって、フランクは特別な作曲家。メモリアルイヤーだけではなく、毎年いろいろな作品を演奏しています。今回は日本の若手実力派の仲間が集まってくれ、一緒に演奏できるのは本当に大きな悦び。ですから、プログラムはじっくり練り上げました」

曲選びはフレンチのコースのように

 ル・サージュは、プログラムを構成するとき、ユニークな考えを取り入れる。

 「ひとつのコンサートを食事のフルコースにたとえるのです。まず、オードブルが必要でしょう。ホールがまだ温まっていないとき、演奏者もゆっくり演奏に入っていきたいとき、比較的静かでおだやかな作品が必要です。そしてメイン料理には、聴き手の心の深遠に届く音色が大切だと考えています。ときには、メインを2曲用意することもあります。じっくりそのプログラムを楽しんでいただきたいからです。こうした選曲は、調性や曲想を考慮して考え、おいしい食事をたくさん味わってほしいので、少しくらい長くても大丈夫だと思います。最後に盛りだくさんのデザートを用意しますが、これもおなかがいっぱいになるものではなく、心身が豊かになるものを選びます」

推進力に溢れた五重奏曲はまるでアクション映画!

 今回は、ル・サージュのソロによるフォーレの夜想曲第4番、第6番で幕開けする。

 「あとに続くフランクとのバランスを考慮し、フォーレの静かな夜想曲を選びました。フォーレとサン゠サーンスとフランクは1871年にフランス国民音楽協会を設立しています。フランクのメモリアルイヤーを祝し、またフランクへのオマージュの意味で、フォーレで始めたいと思っています。フランクのヴァイオリン・ソナタ(ヴァイオリン:弓新)は人気の高い作品で、私もいろんなヴァイオリニストと共演しています。

 その後、前奏曲とピアノ五重奏曲が続きますが、五重奏曲(ヴァイオリン:弓新、藤江扶紀、ヴィオラ:横島礼理、チェロ:上村文乃)はあたかもアクション映画のようです(笑)。情熱的ではげしく、前進していくエネルギーに満ちている。映画のジェームズ・ボンドやブルース・ウィリスの演技を連想させます。私は日本映画も大好きで、小津安二郎、溝口健二、黒澤明などの作品を愛しています。最近では『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督がすばらしいですね。映画は音楽のインスピレーションの源泉ともなり、想像力を喚起します。

 こうした室内楽において、ピアノはイニシアチブを取る役割を担います。単なる伴奏で弦楽器を支えるだけではなく、全体を指揮するような立場だと思っています。今回のフランクの演奏で、ひとりでも多くの人に、作品の内容の深さに気づいていただけたら幸いですし、室内楽の醍醐味も味わってほしいです」
取材・文:伊熊よし子
(ぶらあぼ2022年10月号より)

神に愛された作曲家 セザール・フランク ─フランク生誕200周年記念公演 ─
2022.10/22(土)15:00 京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ
問:京都コンサートホール075-711-3231 
https://www.kyotoconcerthall.org