チョン・ミョンフン(指揮) 東京フィルハーモニー交響楽団 歌劇《ファルスタッフ》オペラ演奏会形式

究極のオペラのマエストロが挑む、究極の喜劇オペラ

 《ファルスタッフ》は究極の喜劇オペラだ。「オペラ王」ヴェルディの最後のオペラで、ほぼ唯一の喜劇。だがそれより重要なのは、この作品がまったく新しいオペラだということだ。会話劇がほぼそのままオペラになった斬新なスタイル。声を張り上げて歌うアリアがない(まったくないわけではないが)のは当然で、《ファルスタッフ》はオペラになった演劇なのだ。20世紀音楽の改革者ストラヴィンスキーも、ドイツ・オペラの権化R.シュトラウスも《ファルスタッフ》には脱帽した。ヴェルディは80歳を目前にして、オペラを改革したのである。大好きなシェイクスピアを題材に、終始観客を微笑ませずにはおかない軽妙で洒脱で人間的なコメディとして。

 究極のオペラのマエストロであるチョン・ミョンフンが、日本でいちばんオペラ経験が豊富なオーケストラの東京フィルと《ファルスタッフ》を演奏するのは、オペラファンにとって朗報以外の何ものでもない。聞くところによるとマエストロは《ファルスタッフ》を指揮するのは初めてで、とても力が入っているという。キャストも、イタリアの名バリトン、セバスティアン・カターナをタイトルロールに迎えるのをはじめ、砂川涼子、中島郁子、須藤慎吾、小堀勇介、三宅理恵ら、歌い盛り聴き盛りの顔ぶればかり。《ファルスタッフ》の最大の聴きどころは、全曲を締めくくるフーガ「人間はみんな道化」だが、老ヴェルディがたどり着いたこの究極のアンサンブルを、この豪華メンバーで体験できると想像するだけで胸が躍る。

 Viva Verdi! そう呟きたくなる瞬間が訪れるに違いないその日。今から、待ち遠しくてたまらない。
文:加藤浩子
(ぶらあぼ2022年10月号より)

第976回 サントリー定期シリーズ
2022.10/20(木)19:00 サントリーホール
第150回 東京オペラシティ定期シリーズ
10/21(金)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
第977回 オーチャード定期演奏会
10/23(日)15:00 Bunkamura オーチャードホール
問:東京フィルチケットサービス03-5353-9522 
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