横山幸雄(ピアノ)

ショパンの人生とともに聴く名作78曲

(c)ZIGEN

 横山幸雄の「入魂のショパン」は、毎年さまざまな切り口でショパンを一気に弾く長時間コンサートのシリーズ。いまや彼の代名詞のひとつとなったコンサートを、10月、初めて名古屋で開く。

 “24時間で最も多い曲数を1人で弾いたアーティスト”としてギネス世界記録に認定された「ショパン・ピアノ独奏曲全166曲コンサート」(2010年)や、その記録を更新した「(未出版曲含む)同212曲」(2011年)は、朝スタートし、日付をまたいで深夜までおよぶ破天荒な長時間コンサートだった。

 「やってみて気がついたのは、通しでリハーサルができないということです。同じ時間かかるわけですから。そこは、きっと大丈夫だろうと楽観的に考えています。実際、リハーサルで1万回できても本番の1回ができない可能性もあるわけで、ある種の楽観主義者じゃないとステージには立てないんじゃないかと思います。自信というのは楽観主義ですよね。

 指の疲労は、僕はそこまでではないです。もともと省エネ奏法というか(笑)。無駄なところに力を入れても大きな音が出るわけではありません。力で弾くよりは重みで弾いたほうが疲れない。音を出すこと自体は非常に物理的な現象なので、なるべく無駄がないように、ということは常にどこかで意識しています」

 今回は全78曲(6部構成)と短い(?)が、それでも13時〜21時30分の長丁場だ。おおむね作曲年代順にショパンの生涯を辿る。

 「ショパンの場合、その時々の内面や心情が非常に素直に作品に表れているので、ショパンの人生とともに音楽を聴いていただけます。彼の作品は、そんなに構えなくてもスッと入ってきますから、もしショパンを聴くのが初めてという方も、聴いているうちにご自分の感覚がショパン色に染まっていくと思います。一方、結構なショパン・ファンの方でも、常に作品の成立年代を意識して聴いている方はそう多くはないでしょうから、作品が時系列でどう変化していくのかを感じることは、大きなポイントになるのではないかと思います」

 ショパンのすべての作品が、ピアノ曲またはピアノを含む編成。だからこそ、その作品と人生をピアノで辿ることには、他の作曲家と比べてより大きな意味がある。

 「ピアニストからすれば、ショパンの作品は全部弾けるわけです。そんな作曲家って他には一人もいないんですよね。そして、言い方が難しいのですが、曲と指の動きが一致してるんですよ。ピアノのためのピアノ曲。どう弾いたらピアノという楽器が一番きれいに響くかを熟知した人が書いているので、練習すればするほど、作品に慣れれば慣れるほど、作品とも楽器ともより一体感を感じることができる。そんな作曲家です」

 横山ほど経験豊富なベテランでもなお、演奏会の序盤には緊張を感じているという。通常の2時間程度の演奏会だと、それがほぐれてきた頃には終わってしまうが、その状態から弾き続けることができるのがこの企画の良いところだと教えてくれた。それは聴衆も同じではないかとも。いわば「リスニング・ハイ」を、横山の力みのない自然な音楽が誘引してくれるはず。半日という時間をピアニストと共有できる稀有な機会でもある。ぜひ万全の体調で!
取材・文:宮本明
(ぶらあぼ2022年9月号より)

横山幸雄「入魂のショパン」
2022.10/22(土)13:00 愛知県芸術劇場 コンサートホール
問:中京テレビクリエイション052-588-4477 
https://cte.jp