シルバ・オクテット

理屈なしで楽しい!
この夏、パリ管の精鋭たちが熱狂を巻き起こす!

文:高坂はる香

 東欧ユダヤ系のクレズマーとロマ音楽の演奏団体、シルバ・オクテット。構成メンバーは主にパリ管弦楽団のトップ奏者たちなので、演奏テクニックはもちろん折り紙付き。その繊細かつ多彩な表現力で、躍動感あふれる民族音楽を演奏する8人組だ。

 クレズマーといわれてもすぐにイメージが浮かばないかもしれないが、日本でもっとも親しまれているものだと、学校の教科書にも載っている「ドナドナ」がある。これは売られる子牛の様子を描いた悲しい曲調だが、アップテンポで賑やかな舞曲調の音楽も大変多く、聴いていると自然と体を揺らしたくなってくる。耳に残るメロディとほのかに哀愁を漂わせる響きを持ち、日本人にとってもどこか懐かしく、親しみやすい音楽といえる。

 シルバ・オクテットは、そんなクレズマーと、クレズマーに多大な影響を与えたロマ音楽を奏で、現代にその魅力を伝えている。

 シルバ・オクテットの芸術監督、リシャール・シュムクレール氏は、パリ音楽院、モスクワ音楽院でクラシック奏者として研鑽を積んだのち、25年にわたりパリ管弦楽団で活躍するベテランのヴァイオリニスト。子供の頃は、「家族が集まると父とギターを弾き、それに合わせてみんながロマ音楽やクレズマーを歌っていた」という。今も自らのルーツであるこうした音楽を演奏していると、「私が若い頃に他界してしまった両親が音楽の中で生き続け、ステージで一緒に演奏しているように感じる」と話す。

 グループは、そんなシュムクレール氏により2003年に結成された。彼らのレパートリーは、伝統音楽の旋律をベースに独自のアレンジを施した楽曲。いわば、口頭伝承の音楽を現代的に編曲し、楽譜に書きおこしたものだ。その際アレンジャーたちには「あたかもブラームスやメンデルスゾーンがするように、音楽の魂をレタッチする感覚で楽譜を書いてほしいと伝えている」という。

 そうして出来上がった楽譜をもとに、音符が語ることに敬意を示しつつ、自由な解釈をもって自然発生的に音楽を奏でていくというのが彼らのスタイルだ。結果そのパフォーマンスは、ライヴ感にあふれた一期一会のものとなる。

「シルバ・オクテットの音楽は、魂から生まれ心に届くもの。悲しみ、苦しみ、大きな喜びといった、人間の深い感情があふれている。流浪の民の望みと失望のすべてが込められている」

 そうシュムクレール氏は語る。

 長引くパンデミック、不安定な国際情勢と、暗い話題も少なくない昨今だが、そんな今こそ、全ての感情を音楽に昇華させるクレズマーは、私たちの感情にぴたりと合うのではないだろうか。音楽の喜び、ミュージシャンの体から湧き出すエネルギーをダイレクトに感じられるコンサートに、大いに期待したい。

シルバ・オクテット
Photo:Bernard Martinez

“TANTZ!” 踊れ! ―シルバ・オクテット
パリ管メンバーらによる最強のクレズマー&ロマ(ジプシー)音楽集団

2022.7/31(日)14:00 ふくしん夢の音楽堂(福島市音楽堂)

問:ふくしん夢の音楽堂024-531-6221
8/2(火)19:00 東京オペラシティコンサートホール
問:カジモト・イープラス050-3185-6728
https://www.kajimotomusic.com