「サラダ音楽祭」 ダンス × クラシックの名曲が出会うメインプログラム

文:乗越たかお

 池袋エリアをメイン会場として、東京都交響楽団が2018年から開催しているTOKYO MET SaLaD MUSIC FESTIVAL[サラダ音楽祭]。なにが“サラダ”なのか。それは「歌う・聴く・踊る(Sing and Listen and Dance)」が一体になったフェスティバルで、それぞれの頭文字から取っているのだ。メインプログラムでは数々の名曲と共に、素晴らしいダンスが用意されている。

手前中央:大野和士(サラダ音楽祭 スーパーバイザー)

 とくに東京芸術劇場コンサートホールで行われるメインのコンサートでは、スーパーバイザーの大野和士(東京都交響楽団音楽監督)指揮のもと、注目すべきダンスのプログラムが組まれている。

 まず「OK!オーケストラ」には老若男女に大人気の近藤良平率いるコンドルズが登場する。ゲーム音楽から有名アニメの曲、クラシックの名曲まで、親子で楽しめる曲が盛りだくさんだ。しかもコンドルズはダンスのみならず、歌あり芝居あり人形劇あり、とにかく盛り上げることにかけてはプロ中のプロの集団なのである。楽しくないわけがない。

コンドルズ

 さらにタイトルの「OK!」には深い意味がある。
 これは年齢や障がいの有無等に関わらず、あらゆる方が来場して音楽とダンスを楽しめる「すべてOK!」のサインなのである。「子どもが騒ぐから…」「車椅子だから…」と様々な理由で普段コンサートやダンスに出かけることを諦めてしまっていた人にこそ、ぜひ出かけてほしいのである。
 もうひとつの「音楽祭メインコンサート」では日本唯一の公立劇場付きダンスカンパニー「Noism Company Niigata(ノイズム・カンパニー・ニイガタ)」が今年も登場する。演出・振付はNoism芸術監督の金森穣である。

Noism Company Niigata

 全4曲のうち、2曲がダンス付きで演奏される。本稿執筆段階ではダンスの詳細は明らかになっていないので、例年の流れから予想してみよう。従来は「カンパニーメンバーが大勢出るスケール感のある作品」と「Noism副芸術監督の井関佐和子を中心に少人数でしっとりと踊る情緒性の高い作品」が多かった。それぞれの曲の魅力を考えながら見ていこう。

 1曲目はアルヴォ・ペルト作曲「フラトレス~弦楽と打楽器のための」である。ペルトはダンス界でも人気の作曲家で作品中で使われることも多い。本曲はペルトの中でも演奏頻度が高い有名な作品だ。
 1977年に故国エストニアの団体からの依頼で作曲された。当時のエストニアの社会状況はというと、ソヴィエト連邦(現ロシア)の共産主義政権下にあって、自由な創作が制限されていた時代である。例外は伝統文化で、本曲を依頼したのもエストニアの古楽団体だった。
 実際、全体には聖歌風の旋律を反復するなど、宗教音楽のような重厚さと気品に溢れている。しかしこの曲にはペルトが確立した「ティンティナブリ様式」が使われている。これは「小さな鐘」という意味で、単純な三和音をまるで一つの鐘のように鳴らし、えもいわれぬ荘厳さと躍動感を表す独自の手法なのである。

2021年 メインコンサート

 Noism Company Niigataは日本のコンテンポラリー・ダンスには珍しく「がっちりとしたクラシック・バレエの技術を使いこなし、新しい表現を生み出すカンパニー」である。伝統の中に最新の身体表現が溶け込んだダンスは、古楽風の曲に最新の手法を採り入れたペルトの曲と魂で引き合うだろう。
 なおタイトルの「フラトレス」は「兄弟」や「同士」といった意味。ソ連から共産主義を強要されていた政権下で、ペルトはどんな思いでこの曲を書いたのだろう。そしてその3年後の1980年、ペルトはオーストリアへ亡命し、以後西側で創作活動を続けることになるのだ。

 あまり政治に引きつけていうのも良くないが、連日のニュースから聞こえてくる世界の状況を見るにつけ、過去だったはずの歴史が今リアルなものとして立ち上がってくる。ペルトが「兄弟」と名づけた作品の重みも、ダンスの中には織り込まれていくかもしれない。
 続くもう1曲はラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番 第2楽章」である。これもラフマニノフの代表曲で、とくにこの第2楽章は故郷の夕景が浮かんでくるような甘く切ない名曲である。あまりにもメロディラインが美しいので、フランク・シナトラやセリーヌ・ディオン(エリック・カルメンのカバー)など、流行曲の原曲として使われたり、様々な映画の劇伴曲としても流れたりするので、一度は耳にしたことがあるだろう。
 井関佐和子が出演するとしたらこちらだと思われる。曲自体がひとつのストーリー性をはらんで展開していき、オトナの表現力も要求されるからだ。江口玲のピアノソロも美しく響き渡るだろう。
 さて実際にはどうなるかは当日のお楽しみである。しかし金森穣はいつも曲の背景までも読み込んだ上で作品に使うアーティストだ。本番を楽しみに待ちたい。

【Information】
サラダ音楽祭
TOKYO MET SaLaD MUSIC FESTIVAL 2022

メインプログラム
🍅OK!オーケストラ
2022.9/18(日)11:00/15:00(2回公演)東京芸術劇場 コンサートホール

〈演目〉
すぎやまこういち:交響組曲「ドラゴンクエスト V」より「序曲のマーチ」
ヨゼフ・シュトラウス:ポルカ・フランセーズ「鍛冶屋」
J.シュトラウスII:喜歌劇《こうもり》より〈侯爵様、あなたのようなお方は〉
久石譲(萩森英明編):「崖の上のポニョ」
ブラームス:ハンガリー舞曲第6番 他
指揮:大野和士
管弦楽:東京都交響楽団
ソプラノ:栗林瑛利子
司会:小林顕作
ダンス:近藤良平(振付)、コンドルズ
児童合唱:東京少年少女合唱隊

🍅音楽祭メインコンサート
9/19(月・祝)15:00 東京芸術劇場 コンサートホール

〈演目〉
ペルト:フラトレス 〜弦楽と打楽器のための[ダンス付き]
ウェーバー:歌劇《オベロン》序曲
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 第2楽章[ダンス付き]
メンデルスゾーン:劇付随音楽「夏の夜の夢」
指揮:大野和士
管弦楽:東京都交響楽団
ピアノ:江口玲
ソプラノ:前川依子
メゾソプラノ:松浦麗
ダンス:Noism Company Niigata(ノイズム・カンパニー・ニイガタ)(演出・振付:金森穣)
合唱:新国立劇場合唱団

※サラダ音楽祭その他公演の詳細は下記オフィシャルウェブサイトでご確認ください。

問:サラダ音楽祭事務局03-5330-3080
https://salad-music-fes.com